二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

シェアルーム・シェアライフ

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

【それぞれの布団事情】




 最前線にて活躍中のアイドル、黒崎蘭丸は、基本、必要以上に早起きするということはない。社長であるシャイニング早乙女の提案、換言すれば命令によって今、先輩後輩関わらず同居を強いられている中で、蘭丸の生活は然程変わったということもあまり無かった。
そもそもにしてマスターコースを終えた後なのである、他人の気配を感じることにも慣れてきていた。空いている時間は睡眠に当てる為寝ている姿が印象に残る者もいるかもしれないが、それは単に、いつ何時何があるか知れないこういう世界で生きている者として、取れる時に取っておくという心積もりからくる行動だ。寝汚いと思われがちだが、元より蘭丸は睡眠が浅い方である。特に他人の気配を感じる場所に於いては、神経が鋭敏になってしまい、眠れない場合が多い。漸く同期や後輩という存在に慣れ始め、少しずつ、彼らが傍に居ても眠れるようになってきている。『懐かない猫が、やぁっとデレてくれたって感じだよねぇ。』とは、寿嶺二の談である。


 さて、ここは件の彼、黒崎蘭丸の寝室である。
 意外にも小奇麗に整えられた、というより、砂月同様必要最低限のものしか置かれていない殺風景な部屋は、カーテンが引かれて陽射しが入らない為、暗色を基調とした室内であることも相まり、薄暗い。彼の相棒たるベースは壁際に立て掛けられている。主人の安息を妨げてはならぬとばかりに、物静かに佇んでいた。と、彼のベッドサイド、目覚ましが与えられた仕事を忠実にこなし、けたたましい音を上げる。
「・・・うっ・・・せ・・・」
もぞり、と伸ばした腕が時計の場所を探し当て、バシン、と叩く。健気に仕事を遂行していた時計は蘭丸の置いた手でもって強制的に鎮められた。引き上げられた意識が再び沈澱しそうになるのを無理に押し留め、暫く天井を眺めていた蘭丸は、いつまでもこうしてもおれまいと、働かない思考を起こすかの様に、起き上がった。
 起き上がろうと、した。
 しかし、緩慢な動作では到底動かない程の何かが、蘭丸の掛け布団を圧迫し、まるで彼の起床を妨げんばかりである。意識と行動の乖離。その原因を確かめるように、蘭丸は首を横に向けた。
「・・・はーっ・・・」
 就寝時には自分しか存在して居なかったベッドに、もう1つ人型が寝転がって目を閉じている。何が悲しくて寝起きから溜息を吐かなくてはならないのだろうかと、蘭丸は目を眇めてソレを見た。時折あることとは言え、慣れれば平気になる、という話でも無い。すると、パチリと瞼が開かれ、スカイブルーの双玉が姿を現した。
「おはよう、蘭丸。」
「・・・おはよう、じゃ、ねぇだろ、藍・・・テメェは何だって人の布団に潜り込んでやがんだ・・・」
 かくり、と首を傾げた藍は、何か問題でも?、と真顔で蘭丸に問うた。問題があるかないかと言われれば、然したることは無い。藍がプライバシーを勝手に盗み見るような品性の欠けたことなどする筈は無いし、敢えてそのような愚行を犯す必要も無いと蘭丸は分っている。ただ彼は何故か、蘭丸の布団に態々潜り込み、寝た振りをして、蘭丸の起床を待つという謎の行動をすることがある。その理由について、藍は語ろうとはしない。何度言っても改善されない為、蘭丸も最早諦めている。一種の甘えなのかもしれないという思いも過り、強く言うことも出来無かった。
「朝ご飯出来たよ、って、呼びに来て上げたんだよ。」
「そうかよ・・・分ぁった起きる。」
 根本たる所を放さない藍ではあるが、この行動には必ず何かしらの理由を付随させる。
そう言えば今日は藍が当番の日であったと蘭丸が考えている間に、起き上がった藍が蘭丸の腕を引いた。
「早くして、冷めるでしょ。」
「あぁ、分かってんよ。今日は何だ。」
「蘭丸は白米の方が良いんでしょ?だから蘭丸は和食。音也と砂月と僕はパンとスープ。」
「一緒で良かったんだぜ?」
「だって、大事な食事でしょ?蘭丸、今日の午前から割と体力消耗するスケジュールだし。エネルギー不足で中途半端な仕事されたら僕達の評価にも関わって来るんだから。」
 藍の背を追って部屋を出た蘭丸を出迎えたのは、穏やかな朝の光であった。今日は珍しく砂月が席に着いている。
「オッス、砂月。お前早ぇじゃねぇか。」
「あぁ、ちょっと作曲してたら朝が来てただけだ。」
「寝て無ぇのかよ。」
「蘭丸先輩おっはよー!」
 砂月の目の下に隈を認めて眉を顰める蘭丸の背後から、有り余る元気の塊が声を上げた。洗面所で朝の仕度を整えていた音也である。
「はよ。テメェは朝から元気だよな。」
「んー・・・若さ?」
「朝からシバかれてぇみてぇだなぁ・・・」
 嶺二には許されても蘭丸には決して冗談として流して貰えない一言を軽々と唇に乗せ、指を鳴らす蘭丸から逃れるように音也は藍の背に回り込む。
「藍先輩ー、蘭丸先輩ってば朝からシャレが通じないよー。」
「馬鹿なことしてないで、座って。蘭丸も、くだらないことに時間を割かないでくれる。」
 僕の完璧なタイムスケジュールが崩れるじゃんと、じゃれ合う2名を放り出して着席した。向かいでは既に砂月が箸に手を掛けている。
「チッ・・・飯にすんぞ。」
「はーい。」

 食後の仕事は、砂月に一任されている。彼は料理に関して一切の関与を禁止されている為、他3人から後片付けをするように言われているからだ。面倒だ、と渋面を作りながらも、一蓮托生という言葉が脳裏を行き来する。または対価交換、働かざる者食うべからず、とも。
「藍先輩ご馳走様!今日も美味しかったよー!」
 音也は作り手に対し、食事の感想を必ず言う様にしている。物事に感謝して生活すること、彼が育った場所で教えられたことの1つであり、食事が出来ることも、誰かが自分の為に作ってくれたことに対しても有難さを持って生きているからだ。
「はい、お粗末様。」
「音也、皿は桶の中に浸けとけよ。」
「あぁ、おい音也、ついでに俺のも持ってってくんねぇか?」
「了解です!」
 笑顔で受け取り、音也は台所へと消えて行った。
「自分で行きなよ。」
「同時に2人で立つと狭ぇじゃねぇか。」
「何だって良いからさっさと空にしろよ。」
 でなければ自分の仕事が進まないと、半眼になる砂月を仕様が無いと肩を竦め、蘭丸と藍は食事のスピードを上げるのだった。