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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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どうってことないさ・・ (1)

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ベッドに寝っ転がって、
ちょうどいい処だったのに・・

あなたがその喫茶店の名を言ったとき
別れ話だと分かったわ
それでもシャワーを浴びて来た

哀しいでしょ?

俺の大好きな歌の途中で、
お気に入りの玩具が真っ二つに・・

太っちょ神父とチャイリンが、
一瞬間を置いて、笑った。

ちっ!、これだから・・

俺は、小さな自分用の部屋を造り始めた。

「どうしたの・・?」

「造ったって、無駄だと思うよ。」

何が無駄なものか・・
心の奥底では、言葉にならない理解者であっても、
その奥に届くまでの過程はそれぞれ。

その奥に、俺なりに行こうとしている時、
同じ道を通りなよと、
お節介を焼くんじゃない・・

どうして、
テープが切れた後、
静かに余韻を引けない?

急に静かになる。
ほんとに何も聞こえない・・静寂。
暫くすると、
周囲の風や犬の声や・・そして、通り抜けるバイクの音。

ふと見れば、同じ日を過ごしている人の顔。

この順番で、俺は、現実に戻りたいんだ。

真面目な顔でそう言うと、
「分かったわ・・。でも、お兄ちゃん・・・」

それは無理だとチャイリンが・・
本気で笑いながら言う。

「だって、歌詞は日本語。意味なんか分からないもの・・」
(ああ、とんだ三枚目だ・・・)

こんな簡単な事さえ気付かないなんて・・

造りかけの小さな俺の部屋は、みんなの物置に変更した。

「上の棚に届く様に、踏み台を造るんだぞ。」
「大切な物を仕舞うんだから、ちゃんと扉も付けてね。」

俄然、オーナー達の注文が多くなった。





   因縁


河の向こうに住む五歳の子、最近、街から帰って来た。

昨日は、雨。
裸の山は、躊躇なく一気に水を吐き出す。
そして、一日も経たないうちに、
水かさは、元の位置に戻る。

店先で、
雨で野良仕事の出来ない農夫たち、
二~三人で飲んだくれて、
小さなその子をからかっていた。

どうして、こうも間が悪いんだ・・

「ママの名前は?」
「ママの名前は、エミーだよ。」
「パパの名前は?」
「・・・・・」

収穫を目の前にして、
河原に植えたナスやオクラが流されたのは、この子の所為か?
(もう、止めろよ・・)

「パパは、居ないよな。誰だか分からないよな・・」

(子供に言う言葉か・・・おとな気ないぞ・・)

一緒に居た老婆は、農夫たちに何も言えない・・

小さな子の大きな瞳に、
今にも零れそうな涙が・・

それに、一人が追い打ちを掛けた。

頭を小突きながら、
「私生児って、知ってるか?」

もう、止めろっ!
ニタニタ笑いやがって・・

ついに、それが言葉になった。

「悪かったな、私生児で・・!」

俺は、
そう言いながら、一人地面にたたき付けた。
そして、捨て台詞。

「・・おいで、チーター・・」

唖然としている農夫たちを置いて、
俺は、その子の手を取った。

新しいギターの弦、買ったばかりなのに錆びていた。

今日という今日は、
面白くない事ばかりだ・・





   陸の孤島


その村に行くには、陸路ほぼ一日、海路三時間。

太っちょ神父は、何時も海路。
月に二度、その村を訪ねる。

その度に、古着や薬を持って行く。

クリスマスが近い今日は、やけに荷物が多い。
そんな日は、何だか嫌な予感がする。
ほうら・・こっちをチラチラ見ながら、海に向かって例の大笑いだ。
ボケと突っ込みを一人でやって・・

面白そうに・・他人なんかお構いなしだから・・
だから、みんなが相手にしないんだ。

兎に角、荷物だけ載せたら、
さっさと退散だ・・

「お~い、もう帰るのか・・おなかが空いたのか?」
(それもある・・・)

だが、
今日は、それ以上に気になる事がある。

チーターが、遊びに来る日だ。

農夫達にからかわれて以来、
彼は、時々教会に来る様になった。

別にお祈りなんかしない。
話すのでもない。
来ても、黙って俺にくっついてウロウロするだけ・・

俺も、何にも話さない。

「ほうら、無言の行が始まった。」

ドン先生とチャイリンが冷やかすが、
いいんだ、それで。

そして、夕方早く、年老いたばあさんが迎えに来る。
ばあさんがお祈りを終えたら、
嬉しそうに、スキップしながら帰って行く。

今日は、そんな日だぞ。
なのに、

「はい、お弁当・・」

・・こんなに沢山・・・、二人分か・・?

俺が訊く前に、チャイリンが笑いながら頷く。

これで、俺は、また神父の処に逆戻り。

「帰りは、明日の午後だ。」
「着替えは・・?」
「大丈夫、段ボール箱の中にいっぱい在る。後で洗濯すれば、また誰かが着るさ。」

と、神父とチャイリンが同時に笑う。

俺の着替えの話かい・・
仕方なく舟に乗ると、今度は、舟を出す漁師まで笑って俺を見る。

本当に・・いい様に使われてる・・





   平和


僕さ~、ボクサーなの・・

これは、何処かの元プロ・ボクサーの言葉。

この国にも、ボクサーや元ボクサー、そして、それを目指す若者が・・
大方は、生活を少しでも・・いや、飛躍的に良くする為に夢を追う。

そして、殆どは、また元の貧乏暮しに・・

また、やってしまった・・。
だが、今度は、少し・・今までと違う・・気がする。

人ってのは、厄介だ。

この地域のお祭りの日。
何のお祭りかは、訊く気も無い。

此処は、ある意味、年中お祭りだから・・
ただ、それが、大きいかささやかなものか、
その差だけ。

村のキャプテンと太っちょ神父、何故か真面目な顔で話している。
そして、神父が消えた。

「いい?・・・絶対に断るのよ。」

何の事だか言わないで、
チャイリンが・・

「今年は、国際マッチだ。」
(何の話だ・・)

まったく勝手な奴等だ。
知らないうちに、
俺は、俄かボクサーになっていた。

「腕っぷしには、自信あるだろ?」

村のキャプテンが、笑いながら・・

知るかよ、そんなこと。
だが、ほんの数秒後、
悪い虫が、起き出した。

「・・奴の従兄だ。お前を・・と御使命だ。」

この言葉に、俺の頭は、即行頷いた様だ。
この血が無ければ、どれだけ平安か・・

先だって、チーターの事が有ってから、
農夫は、合法的(?)仕返しを考えていた様だ。

元プロ・ボクサーに、ボコボコにされるのを、自分は一杯飲みながら楽しみたいってか・・

「プロったって、四回戦ボーイだろ?」

止めるチャイリンに言いながら、
気持ちはもうリングの上。

これが間違いの元だった・・。

犬同士、互いの事は、臭いで分かる。
こいつ・・、ボクシングより喧嘩が得意だ・・

「喧嘩だな・・?」
「・・当たり前だ。お前相手に、ボクシングなんか出来るか!」

目が合った瞬間、無言の確認をし合った。

気が楽になった。
だが、

やはり、半端なく強い。
立っているのがやっとだ。
目が眩む。
ボディーを打たれて脳天に響くなんて、初めての経験だ。

結果は、言うまでもない。

せめてもの慰めは、相手の顔も腫れ上がっていた事くらい。
それと、
これで、農夫の溜飲も下がっただろう・・という負け惜しみ。