小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

海竜王の宮 深雪  虐殺11

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
一年近い時間のうちに、ようやく小竜の左目は眼球が再生した。それまで入れ代わり立ち代り、薬師様、乳母様、謡池のもの、母親、許婚、兄たちなどが世話をした。さすがに、白竜王は領域の警備のほうに手を取られて、なかなか小竜の相手はできなかったのだが、それも落ち着いて戻って来た。
 今は、薬師様が相手をしている。小竜も意識がしっかりしてきたので、長い時間、起きていられるようにはなった。とはいうものの、ずっと眠っていたので体力的にはガタ落ちしていて、少し遊ぶと疲れて眠ってしまう。それに言動も、すっかり小さな子供に戻ってしまった。ちょうどよいだろうと義理の両親は、そのまま育てるつもりをしている。これから徐々に教育して成長させれば、退行することもなくなるはずだ。
「小竜の治療に多大な力をお貸しいただき、感謝の言葉もございません。」
 そう叩頭して挨拶すると、薬師様は軽く首を横に振る。腕には、小竜を抱いているが、そろそろオネムなのか、とろんとした目をしている。
「なんの、なんの、久しぶりに可愛い孫とゆっくりさせてもらっている。こちらが礼を言うべきかもしれませんぞ? 叔卿殿。」
「とんでもない。クスリのことも、回復への助力も、あなた様にしかできません。」
「いやいや、クスリは妻の力があればこそですよ。私では、到底、確保できるものではありません。・・・・ん? オネムかね? 小竜。・・・いいのだ、そのまま寝ておしまい。」
 くったりと薬師様の胸に顔を埋めている小竜は起きていようと努力はしているらしい。ふるふると頭を振ってゴネている。
「・・や・・・三兄・・・」
「ああ、叔卿殿に挨拶かね? では、叔卿殿、抱っこしてやってくれるか? 」
 久しぶりに三番目の兄が顔を出したので、それに挨拶したいらしい。それなら、と、薬師様は小竜を白竜王に手渡す。
「随分と顔色が良くなったな? 深雪。・・・・なかなか顔を出せずにすまんな? 」
「・・・ごめんね・・・・三兄・・俺・・・迷惑かけた・・・」
 ずっと、小竜は三兄を待っていた。忙しくさせている原因は、たぶん自分のためなんだろうと朧気には気づいているらしい。
「いいや、俺がおまえに礼を言わねばならないところだ。助けに来てくれて、ありがとう、深雪。助かった。」
「・・・・でも・・・」
「はははは・・・もちろん、その後、俺がシユウの王を倒して、おまえを救い出したが、まあ、それはどっちもどっちだ。気にするな。・・・何か欲しいものはないか? 用意させるぞ? 」
「・・・ないよ・・・いっぱい・・ある・・」
「そうか? おまえは欲が無さ過ぎるんだ。華梨はいらないか? 」
「・・・欲しい・・・」
「わかった。すぐに降りて来るように連絡してやろう。・・・他には? 母上か? 」
「・・・ひとりずつ・・・」
「なるほど、そうだな。華梨の後で母上に降りてくれるように頼んでみよう。」
「・・・おしごと・・・大丈夫かな・・・俺・・・じぃじとばぁばの仕事・・・・でも・・・じぃじも・・ばぁばも・・・いいって・・・いいの?・・・俺・・・ねぇ・・・三兄・・・ふたりは・・・」
 だんだん、支離滅裂な言葉になってくる。それをあやしながら、うんうんと聞いてやる叔卿は泣き笑うような顔になってくる。本当は違うのだ。だが、それを今は言えない。すっかりと子供に戻っている小竜は人の体温で安心して眠る、ただの子供だ。何も覚えていないのは事実で、本当に記憶はない。だから、小竜は迷惑をかけたと謝る。それが切なくて叔卿は顔を顰める。
「ほいほい、貰おうかな? 叔卿殿。もう寝ておるよ。」
 あやしていた手を掴れて、小竜の身体は薬師が静晰に渡した。そっと静晰が、寝台へ運ぶ。
「深雪は、何も覚えておらんのだ。・・・・暴走した時の記憶というよりは、憎しみで爆発したということすら覚えていない。だから、このままなら、このままでよい。あなたが、深雪を助け出した、ということにしておけばよい。」
 何度も薬師も確認している。それでも、ぽっかりと記憶は抜けているらしく、思い出さない。それならば、これでよい、と、薬師も思う。気性の穏やかな優しい深雪には、事実は必要ではない。いつか、成人してからでも、そのことは必要になったら教えれば済むことだ。
「私くしも、そう聞き及んでおります。」
「あなたは実際、暴走する深雪を踏み留めた。だから、助けたとは言い換えられる。そのままだったら、儚くなっていただろう。だから、何も疚しいことはない。」
 話を聞く限り、そういうことだ。そのまま暴走させていたら、深雪の体力が尽きただろう。それを阻止した功績は大きい。だから、気に病むことは無い、と、薬師様も白竜王を慰めた。
「ありがとうございます。・・・・そのつもりで対応する所存です。いずれ、深雪が思い出すことがあったら、事実は教えますが、そうでないなら、このままに、と、長も両親も申しております。」
「それがよいだろう。・・・・あの子は碧と違う強さがある。このまま成長すれば、よき水晶宮の主人となりましょうぞ?」
「くくく・・・そうでしょうね、薬師様。その教育としつけにも、ご参加されるつもりですね。」
「それはそうだろう。あんなに可愛い孫なんだ。子育てには参加させてもらいますぞ。なんでも教えてやれますからな。」
 神仙界随一の学者だ。その知識を孫に与えるのはやぶさかではない。それは、過去、義理の息子にもしたことだ。
「ははは・・そちらは存分におやりください。」
「まもなく、左目の再生も終わります。・・・そうなったら、水晶宮に戻しましょう。」
「ええ、お願いいたします。」
 予想よりも時間はかかったが、それでも左目の再生となれば、かなり早い。本来なら三年はかかるものを一年とちょっとでさせてくれた。まあ、いろいろと水晶宮のお歴々たちは騒いでいるが、それも面前で騒ぐものはなくなった。黒竜王と白竜王が、それらの五月蝿いものは粛清したからだ。さて、添い寝をしてやらねば、と、薬師様は寝所へ消えた。代わりに、妻が戻って来る。一年に渡り、様々な関係者が出入りするのを対応してくれたのは妻のほうだ。西海の宮のことは任せてください、と、気持ち良く啖呵を切ってくれたので、甘えさせてもらった。
「そろそろ、再生も終るそうですよ? あなた様。」
「そうらしいな。どうやって戻すか、兄上たちと相談せねばならんな。・・・・やれやれ、ゆっくりする暇がない。」
「ほほほほほ・・・・粉骨されるとおっしゃいませんでしたか? まだまだでございますよ? これから、深雪様に、よからぬものが近付かないように気をつけませんとね。蓮貴妃も、それは気にしておりました。」
 今は超常力が使えないからいいのだが、体調が回復すれば、それも使えるようになる。なるべく、竜族にも知られたくないから、余計なものは近寄らせないつもりだ。力加減ができない状態で、発動させたら、あの騒ぎが再現されてしまうかもしれないからだ。
「たぶん、それは文里叔父上が担当になるだろう。父上が、そうおっしゃっていた。」