海竜王の宮 深雪 虐殺10
おそらくは、竜族にも、白銀の竜の特殊な能力は公開されていないのだろう、と、予想できた。そして、当の水晶宮の次期は西海の宮に隠れているらしい。戦の騒ぎが怖くて、静かな宮に避難したということになっているが、たぶん、あの傷の治療をしているはずだ。間違いなく、白銀の竜の左目は射抜いた。再生させるには、かなりの時間がかかるはずだ。あれを殺さねば、シユウの未来は危うい。それに、あれの逆鱗でもあれば、彰は、再び、玉座に近いところに返り咲くこともできる。
そのためには、水晶宮のもの、それも次期に近いものから情報を取らねば、と、考えて探した。西海の宮に押し込むのは無理なことだが、水晶宮なら、また結界を綻ばして侵入することはできるはずだ。その手引きをしてくれるものが必要だった。
半年ほど、あっちこっちと情報を求めて彷徨っていたが、ようやく、次期の側付きの女官が里帰りしているという情報を手に入れた。さすがに、シユウの自分が接触するわけにはいかないので、酒場で知り合った見目の良い白虎の若者に金を渡して、篭絡してくれるように頼んだ。案外、簡単に、女官は自分の住む場所へ若者を誘った。
何度か逢瀬を繰り返させて気を許したところで、ある夜、彰が、その若者の代わりに、女官の部屋を訪れた。
「今日は、俺の相手をしてもらうぞ。」
女官は驚いて口も聞けないほどになって、部屋の片隅に縮こまった。敵対するシユウが寝所にくれば、どんな酷いことをされるかわからない。生きた心地もないだろう。
「まあ、そう畏れなくてもいい。まずは、これを食してもらおうか? 」
懐から取り出した黒い玉を無理矢理に女官に飲み込ませた。それが、体内にある限り、女官の言動も女官が見聞することも彰に伝わるものだ。もちろん、彰も、その玉と同じものを身につけていることが前提だ。飲ませて、それから薬剤も飲ませる。こちらは、意識を混濁させるものだ。
それから女官を抱いた。抱いて、彰の体液を女官の身に叩き込んだ。一晩ではない。毎晩、そうやって体液を女官の身に入れ込み、玉の繋がりを強くする。何度目かに、女官は彰に抱かれることに慣れて毎夜、怪しく身悶えさせるようになった。相手が敵であるという認識よりも身体に受ける快楽が勝ったのだ。それから、血を飲ませた。これで玉は通底器の役割を果す。それに、彰が遠隔から女官を操ることもできる。同性か相手なら、クスリと血で繋がりはつけるところだが、異性だからこそ支配は容易くなる。
「よいか? これが欲しければ休み毎に、ここに戻って来い。好きなだけくれてやる。」
里帰りの時期は繋がっているから簡単に判る。これから、この女官から情報を集めればいい。そのうち、あの白銀の竜の逆鱗を奪う算段をする。急ぐことはない。じっくりと方法を考えて、苦しませてやるつもりだ。
作品名:海竜王の宮 深雪 虐殺10 作家名:篠義