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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 外伝2 前日譚:アリス

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アリスがシーツをめくると隣で寝ているはずのバルタザールの姿はなかった。
「アリスさーん。起きてますかー?あれ?開いてる。入りますよー。・・・アリスさん?」
「ああ、おはようオデット。どうしたの?こんな朝早くから。」
「早くないですよぅ。もうお昼近いんですから。それに今日来るって昨日言ったじゃないですか。」
「・・・そうだったわね。ごめんなさい。」
「・・・ってアリスさん。いつになく刺激的な格好ですが。」
寝起きだったせいでシーツを巻いただけの格好のアリスを見てオデットが頬を染める。
「起き抜けだから。ごめんなさいね。」
「いえ、なんというか、同じ年としてはこの成長の差は著しく自分の惨めさを際立てますが、むしろ眼福と言えるのでプラスマイナスゼロです。」
「え?」
 ブツブツと何か言っているオデットの言葉を聞き取れずにアリスは首を傾げた。
「いえ、なんでもないです。でもアリスさんがこんなに遅くまで寝ているなんて珍しいですね。」
「まあ、昨晩は色々あって疲れていたから・・・。今お茶をいれるから座って待っていてくれるかしら。」
 しかし、目覚めてみれば昨晩色々あった相手であるバルタザールは忽然と姿を消していて、ともすれば昨日の出来事すべてが夢だったのではないかと思うほどだった。
「そう言えばテオさんて。」
 しかし夢だったのではないかというアリスの考えは次の瞬間のオデットの一言で完全に打ち消された。
「皇帝陛下に似ていますよね。と、いうかご本人ですよね?」
 打ち消されただけではなく、まさかのオデットの追撃を聞いたアリスは動揺して持っていたポットを落とし、ガシャーンと大きな音が家の中に響いた。
「お、おおおおオデット?何を言っているのかしら?」
 平静さを装おうとするアリスだったがどもってしまって、動揺がまるわかりだ。
「いえ。私、昔陛下をお見かけしたことがあって、もう10年以上も前なので自信はなかったんですけど、でもアリスさんの様子からすると、やっぱりそうなんですね。」
「・・・・・・そういえば忘れていたわ、あなたの魔法。」
 完全記憶能力。
 それをもってすれば人の顔を覚えているなどたやすいことだろう。
「じゃあ、やっぱりテオさんは皇帝陛下なんですね。」
「・・・そうよ。」
「でも、テオさんってとてもあの悪名高い皇帝陛下には見えませんでした。なんていうか、すごく優しくて、お茶目で素敵な方でした。」
「そりゃあ、あの人はそんな悪いことの出来る人じゃないもの。あの人はとても弱くて、寂しがりで、意地っ張りなの。誰かにそそのかされなきゃ酷いことなんてできるわけないもの。あの人がやりたくてやってるんじゃ・・ないもの。」
 彼が狂王だと知ってなお、そうは見えないと言ったオデットの言葉にアリスの瞳から涙があふれる。
 街中で聞こえてくる彼の悪評。
 オデットの言葉。
 その数は当然、圧倒的に悪評が多い。しかし、彼のことを知らずに言われているどんな酷い悪評よりも、直接会ってそうは見えないと言ったオデットの一言がアリスにはなにより強い言葉に感じられた。
「アリスさん。私でよかったら話してください。話を聞くしかできないかもしれないですけど、そのくらいならいくらでもできますから。」
 アリスはオデットにすべてを話した。
 幼い頃彼に救われたこと。
 彼が本当の父のように優しかったこと。
 突然彼を襲った悲しみのこと。
 それからの10年のこと。
 昨日のこと。
 そして、今日のこと。
 これからのこと。

 アレクシスにもクロエにも話したことのない胸の内まで吐き出すようにしてアリスは全部オデットに話した。
 オデットは時に優しく微笑みながら、アリスの頭を抱きながら、最後まで聞いてくれた。
 そして、アリスがすべて話し終えたところで、短く「大変でしたね。お疲れさまでした。」と言った。
「・・・ごめんなさい、こんな泣き言聞いてもらっちゃって。」
「いえ。いいんです。でも、今日リュリュ様の誘拐が起こるっていうのなら・・・。」
「ええ・・・せっかく仲良くなれたけど、今日でお別れなの。」
「そうですか・・・。」
「リュリュ様をアレクのところに連れていかなきゃならないから。それが終わったら陛下を助ける手段も探さなくちゃいけないし。」
「アリスさん。私お手伝いします!リュリュ様の護衛は足手まといになっちゃいますけど、テオさんを助ける方法を探すほうは手伝えると思うんです。」
「でも、あなたお店は?」
「えへへ・・・実は昨日つぶれちゃいまして。あ、でもこの家だけはなんとか守ってアリスさんの名義に書き換えたんです。本当は今日その権利書を渡しにきたんです。」
照れくさそうに頭を掻きながらオデットは持ってきた封筒を差し出した。
「何でそんな事を?」
「アリスさん、この家を紹介した時すごく喜んでくれたじゃないですか。アリスさんは私の最初で最後のお客さんだったんで、この家を気に入ってくれてたみたいだからずっと住んでほしいなって思って。」
「オデット・・・。」
「わたし、こんな変な魔法持ちなものだからちっちゃいころから変なことばっかり覚えてて、そのせいで昔から友達っていなくて。最近も不正をしてる同業者からの嫌がらせとかもいっぱいあって・・・でもアリスさんは気持ち悪がらずにわたしに接してくれて・・・それが嬉しくて。私にできることなら何でもしようって・・・あ、こんなこと言ったら気持ち悪いですよね。すみません。」
「ううん・・・そんなことない。私もこんなに自分の気持ちを素直に話せる相手って今まで居なかったからその・・・オデットのこと親友とか・・・思ってもいいかしら?」
「嬉しいですアリスさん!」
「ちょ・・オデット苦しい苦しい。」
 オデットに抱きつかれたアリスが、冗談混じりにオデットの肩をタップする。
「あ、そうだオデット。私からもプレゼントがあるの。」
 アリスはオデットの腕から逃れると、昨日買った万年筆の包をとりだして手渡した。
「開けていいですか?」
「どうぞ。」
「わぁ・・・かわいいっ!私これでたくさん手紙とか、陛下を助ける方法とか書きますね。」
「あ・・・そうか。」
 これからアリスが旅から旅の毎日になることは火を見るより明らかだ。
 追っ手もかかるだろうからすんなりとアレクシス領へ戻れるとは限らない。
 そうなるとオデットがせっかく手紙を書いてくれても、バルタザールを助ける方法を見つけてもアリスに届ける手段がないのだ。
「どうしましょう・・・。」
「そうだ。その万年筆ちょっと貸して。」
「え?はい。」
 アリスはオデットから受け取った万年筆に手をかざすと何事かをもごもごと口にした。
「よし。じゃあこれで何か書いてもらえるかしら。」
「はい。えーっと・・・アリスさん大好きです。と。」
「できればもう少し恥ずかしくない文章がいいんだけど・・・。」
 オデットが文章を書き終えると、突然便箋が光りだし、やがて鳥の姿になってアリスの肩にとまった。
「よし、成功ね。そのペンで書いた手紙は私のところへ勝手に飛んで来るようにしたから、絶対無くさないようにしてね。」
「・・・アリスさんの魔法って本当になんでもありですね。」