小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

グランボルカ戦記 外伝2 前日譚:アリス

INDEX|3ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 



 アリスがアミサガンでの任務に就いて2年の月日が流れた。
 毎日毎日城に向かい真面目に望遠鏡をのぞく日々。・・・などということもなくアリスのやる気は『何かあれば騒ぎになるでしょう。』位のテンションに落ち着いてしまい。
 そんなアリスのテンションを察したのかオデットがやってくる頻度も絶賛増加中だった。
 オデットがやってくる頻度が上がるということは自ずと差し入れの回数も増えるわけで、いつもいつも差し入れを貰ってばかりで悪いと思ったアリスは、
その日オデットへ日頃のお礼として何かプレゼントを買おうとアミサガンの街へと降りた。
 何件か回った後、雑貨店で可愛らしいデザインの万年筆を購入して店をでたアリスは、通りで思いがけない人物と遭遇した。
(陛下?)
 かつての賢帝。今は狂王と呼ばれているバルタザール帝だ。
 平民の服を着ているせいで威厳などかけらもないが、かつて父のように慕った彼をアリスが見誤るようなことはない。
(・・・と、いうかそもそも、公式の場以外では威厳という言葉とは無縁の人でしたけど。)
 そんなことを思いながらどうしたものかとアリスが思案していると、バルタザールの方がアリスに気がついて、満面の笑顔を浮かべながら大きく手を振った。
 その屈託のない笑顔にアリスは軽い目眩を覚えた。
 変わっていない。と思った。
 変わっていなさ過ぎる。と思った。
 噂話を信じるまでもなく、今の彼は紛れもない狂王であるはずだ。
 リシエール戦役の日、彼の身支度を整えたのはアリス自身であり、その時に目にしたバルタザールの目には狂気が宿っていた。
 アリスはその目を見て、父のように慕っていたバルタザールに対して初めて恐怖を覚えた。
 バルタザールは変わってしまったんだと、絶望を覚えた。
 しかし今あそこでアリスに向かって手を振っている彼は紛れもなく、優しく強く、アレクシスにとって、アリスとクロエにとって優しき父だった頃の彼だ。
だが、彼は狂王となったはずだ。自分の国に興味をなくし、怪しげな伝説を信じて隣国を滅ぼした狂王に。
 アリスが頭の中で様々な考えを巡らしているうちに、バルタザールは人ごみをかき分けてアリスの目の前にやってきた。
「あ・・・。」
「知らん顔をするとは酷いではないか。それとももうワシのことなど忘れてしまったか?」
 変わってしまったはずの彼の変わらない態度、言葉にアリスの頭のなかはぐちゃぐちゃにかき回され、考えをまとめることなどできなくなってしまう。
「へい・・か?」
「うむ。久しぶりだなアリス。」
 名前を呼ばれたのが、トリガーになりアリスの感情が溢れ出す。
「ふぇ・・・へいか・・・へいかぁ・・・。」
 アリスは子供のように泣きじゃくってバルタザールに抱きつく。
「ふぇぇ・・・へいかぁ」
「あ、アリス少し落ち着け。これではワシがそなたを泣かせているようではないか。」
 バルタザールの言うように道行く人々が立ち止まり、何事かと二人の様子を伺っている。
「い、移動しよう。どこか人気の無いところへ。な?アリス。」
 バルタザールの言葉に、我に戻ったのか、アリスは慌てて涙を拭いて頷いた。

「それにしても久しぶりだな。変わらず・・・いや、立派に成長したなアリス。」
 アリスが落ち着くのを待って移動したオープンカフェでバルタザールが嬉しそうに言った。
「・・・陛下もお変わり無いようで安心しました。」
「冷たいのう。前のようにお父さんと呼んでくれてもよいのじゃぞ。」
 バルタザールの言葉にアリスは飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「そんなふうに呼んだことはありません!」
「なんじゃ、忘れてしまったのか?アリスとクロエが城に来てすぐだったかワシをお父さんと呼んでくれたことがあったろう。娘ができたようで嬉しかったのだが。」
 言われてみれば確かにあった。とアリスは思い出した
 だが、あれは女の先生をお母さんと呼んでしまうのと同じことだ。
 うっかりミスだ。というかそんな細かい事を覚えているのかこの人は。
「・・・たしかに言い間違えをしたことはありましたけど。その一回でさも私が陛下のことを普段からお父さんと呼んでいたかのように言わないでください。」
「相変わらずつれないのう。まあ、そこがアリスのいいところなのだが。・・・とはいえ、こんな街中で陛下と呼ばれるのも色々と問題があるのう。」
「それはそうですがお父さんと呼ぶのもどうかと思いますよ。」
「ふむ・・・では、テオ。」
「はい?」
「ワシのミドルネームじゃ。エリザベスが時々呼んでおったろう。」
「そう言えばそんな風に呼んでいましたね。子供のころ何でテオ様なんだろうって疑問に思っていた気がします。ではテオ様」
「様はいらぬ。呼び捨てにせよ」
「いえ、しかしそれはさすがに。」
「様など付けられてはワシが偉い人のようではないか。」
 いや、偉い人だろ。とか、偉そうな口調で何を言っているのかとか色々突っ込みたいところがあったが、アリスはそれをぐっと抑える。
「本当にそういうところはアレクにそっくり」
 ツッコミは抑えたが、アリスの口からポツリと本音が漏れる。
「おお、そうじゃアレクシスとクロエは元気か?」
 アリスのつぶやきを聞いたテオが身そう言ってを乗り出して食いついた。
「ええ、もう二年くらい会っていませんが先週手紙が参りました。二人とも変わりないそうです。」
「そうか、それはなにより。」
 アリスの言葉を聞いてテオは満足そうに頷いた。
「こんなことを聞くのは野暮かもしれぬが、皆年頃じゃし恋人など居るのかのう。」
 そういって何となく照れくさそうにハニカミながらテオが言う。
 そんな表情を見てこういう所は、本当に昔のままだとアリスは思った。
「クロエはアレクのこと好きなんですよ。」
「そうなのか!うむ・・・クロエならアレクシスを任せてもよいかもしれぬ。」
「まあ、アレクは別の人が好きなんですけどね。」
「ふむ・・・まさかアリスか?」
「違いますよ。私じゃありません。テオの知らない人です」
 まさか貴方が滅ぼした国のお姫様ですよ。などととは言えるはずもない。
「そうか。ならばワシとしてはクロエに頑張ってほしいところじゃな。」
「でもそんなクロエにも好きだと言って・・・はくれないですが、気にしてくれる男性が。」
「む・・・そんなどこの馬の骨ともわからん奴に大切なクロエをやるわけにはいかんな。『貴様にお父さんと呼ばれる筋合いはないわぁ!』
というあれをやったほうがいいかのう。『ワシに勝てなければ娘はやれん』とか」
「やめてあげてください。テオに殴られたら地平の彼方へ飛んでいってしまうような人ですから。」
「ふむ。最近の若いもんは軟弱じゃのう。」
「いえ、テオが屈強なんですよ。」
 ため息混じりにやれやれと言うテオに、アリスがコロコロと笑いながらツッコミを入れる。
 しかしアリスは10年の時を経て、自分がバルタザールと交わしている何気ない会話を楽しむ一方で、違和感や疑問を抱かずには居られなかった。

 貴方は狂ったのではなかったのですか?

 貴方は私たちを捨てたのではなかったのですか?

 なぜ、リュリュ様の街に居るのですか?