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 湿った岩陰に身を寄せ合う光司と優子、体温はどんどんと下がって行く。優子は他人の妻、されどもサバイバル、光司はずっとずっと抱き締めた。そして冷えた夜がやっと明けた。しかし、待てども救助隊はやって来ない。

 時は流れ、また闇が襲いかかってきた。この意味は、愛華と大輝が未だ下山できていない、どかで……となる。光司と優子は連れ合いの不幸を嘆き、そして自分たちの死の予感におびえた。

 それでももう一つの夜は明けた。これはまことに幸運、待ちに待った救助隊、いや神が遂に立ち現れたのだ。
 されども光司は救いの神から信じられないことを告げられる。
「遭難場所の報告は北側だったのですが……、実際は南だったのですね」
 光司と優子は耳を疑った。愛華と大輝は南側だと絶対に知っていたはず。もちろん後日、光司は二人を問い詰めた。だが単純な記憶ミスとしか返ってこなかった。

 光司は疑った。二人には何か冷徹な意志が働き、嘘をついたのではと。
 それからのことだ。光司は妻が信じられなくなった。そして離婚が切り出された時、こういう宿命だったのかと諦め、届けに判をついた。

 あ〜あ、最近このため息から一日が始まる。そして今朝も同じ、仕方ないかと続く。こんな忸怩たる昼前に、チャイムが鳴る。光司がおもむろに玄関を開けると……焦燥し切った優子が立っていた。そして言う。
「ここの岩陰で、しばらく、──今度は愛の神さまを待たせてください」

 光司は、とどのつまりが、今までのすべての出来事が、この縁へと繋がるためだったのかと年甲斐もなくはにかむ。
 そして、そっと手を差し伸べるのだった。