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海竜王の宮 深雪  虐殺8

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簾が意識を取り戻した時には、すでに謡池の離宮だった。傍らには、泣きそうになっている女房がいる。
「我が上、お目覚めですか? 」
 片腕が吊られた状態で、蓮貴妃は、夫の頬を撫でている。いきなり、運び込まれて来た簾の姿にびっくりして心配した。気丈な夫が意識が保てないほど衰弱しているなど、かなりの重症だからだ。部屋は結界で内からは開かないが、簾の看護をするために必要なものは運び込まれた。それで、せっせと蓮貴妃は看病をしていたのだ。
「・・・ちっ、静晰にやられた。あいつ、相変わらず、気が短い。」
 ゆっくりと身を起こしているのを、蓮貴妃が支える。まだ、それほど回復した様子ではない。
「申し訳ございません。私くしも、西王母様に監禁されてしまい、戻ることは叶いませんでした。」
 戻るつもりをしていた蓮貴妃も、ここに閉じ込められ傷の治療を受けていた。いかな剣の達人とはいえ、大勢の戦闘部隊の女仙たちに囲まれては突破は難しい。それに、傷も酷くて起き上がれなかったのだ。ようやく、起き上がれるようになり、そろそろ結界を破壊しようと算段していたところに、夫が運ばれて来たから、そのまま看病している。支えてくれている蓮貴妃を抱き締めて、髪に口付ける。
「それは、構わない。・・・元々、それは私が母上にお願いしたことだ。」
「まあ、なんとことを・・・私くしが必要ではないと申されますか。」
「いや、おまえが儚くなったら、私には耐えられないからだ。・・・おまえは私の後から儚くなれ。そう命じただろ? 」
「はい。ですが、深雪が。」
「たぶん、上元か九弦が付き添っているはずだ。・・・・どうせ、目は覚めない。」
 簾も、一月はかかると理解している。ただ、少しずつ回復していくから、どこかの地点で意識が戻ったら、母を呼ぶだろうと思うから、離れたくなかったのだ。
「あれから、幾日過ぎている? 」
「我が上が運び込まれて、十日でございます。・・・・随分と消耗なさっていて、お目覚めにはならないかと案じておりました。」
「それほどか・・・まだまだ鍛え方が足りないな、私は。一月は付き合えると踏んでいたんだが。」
「付き合えましたでしょう。ですが、その場合は、あなた様も一月はお眠りでございました。」
 気力で持ち堪えることはできたはずだ。ただ、その場合、朱雀の力を、ほとんど消耗してしまうから、回復するには、同じだけかかったはずだ。体内の焔を消さぬように周囲の水に抵抗するのだ。普通の朱雀なら、すでに虫の息になっているだろう。
「背中の怪我も、折れておりました。固定できぬ場所でしたので、寝ていてくださって、結果としてはよかったかもしれません。」
 肩甲骨と肩の部分が折れていた。固定が難しい場所で、簾が意識がなかったから固定したに近い状態にできたから、かなり骨も繋がったはずだ。毎日、動かない腕を庇いながら、蓮貴妃は、治療と看病をしていたのだ。
「おまえのほうは? 」
「もう飛ぶことは可能でございます。ご命じくだされば、結界は破壊いたしますが? 」
「いや、私がダメだな。」
 支えてもらって、なんとか起きているが、たぶん飛べないだろう。焔の力が足りなければ、朱雀本体にも戻れない。これでは、戻ったところで足手纏いになるだけだ。
「では、一足先に私くしだけでも? 」
「ダメだ。今のおまえでは、水中で十日と保ちはすまいよ。私の世話をしておれ。」
 もちろん、蓮貴妃も同様だ。怪我を完治させなければ、悪化するばかりで、あちらで保たない。この状態で戻ったら、確実に、静晰に叩き返される。それでは意味が無い。
「よろしいのですか? 」
「・・・・そろそろ、母上が到着されているだろう。あの方なら、深雪は懐いている。・・・悔しいが、諦めよう。」
 戻りたいのは山々だが、役立たずにはなりたくない。傷を完治させなければ、西王母と入れ替わることはできないのだ。ここは退くしかない。
「承知いたしました。・・・では、もう少しお休みください。」
「・・・ああ・・・蓮、すまないが腕枕を所望したい。」
 ゆっくりと寝台に横にされて、簾が命じると、蓮貴妃も、にこっと微笑んで頷いた。ゆっくりと怪我していない腕を簾の頭の下にやり横になる。
「どうぞ、お心静かに。」
「・・ああ・・・おまえの匂いは気が静まる。」
 簾も蓮貴妃の腰に手を回し抱き寄せ、満足そうに息を吐き出して目を閉じた。体力を回復させるのが優先だ。




 毎日、静晰は、離宮の湯殿を訪れていた。それなりに公務もあるので、常時とはいかない。ついでに、なぜだか、謡池のナンバーツーである上元夫人が湯殿に陣取っている。
「あちらは大丈夫でこざいますか? 上元様。」
 西王母が不在で、執政を担当する上元は、忙しいはずなのだが、それも無視している。毎日、湯殿で小竜の顔を鑑賞しているので、静晰も気になる。
「ほほほほ・・・・そろそろ、西王母様がいらっしゃるでしょう。それまでは堪能させていただきませんとね。」
 西王母がやってきたら、確実に追い出される。それがわかっているから、執務を無視して滞在しているらしい。
「上元様、女官からの書状です。返事を速やかに。」
 そこへ青麒麟の青飛が人型で顔を出す。もう、なんていうか、謡池のトップクラスが勢揃いしそうな勢いだ。
「青飛、少し待ってください。すぐに確認します。」
 毎日、霊水を運んで来るのは、九弦か、この青飛だ。どちらもが、上元への質問状を携えている。配下の女官たちでは決済できないことを尋ねる書状だ。パラパラと、それを眺めて、質問の答を書き記す。その間、青飛は湯殿の中を覗き込んでいる。あの仙人とは似ていない容姿だ、が第一印象だった。なんせ、かの仙人は銀糸の髪に碧色の瞳という西方の血が濃く出た容姿だったからだ。
「相変わらず、寝てるなあ。・・・・早く目が覚めればいいのに。」
「まだ、あれから二週間と経過しておりません。青飛殿、深雪様が目覚められるのは、まだ二週間は先です。」
 たぶん、一月は目が覚めない、と、簾は言い置いた。それからすれば、まだまだ回復はしていない。解毒は、そろそろ完了するだろうが、それも定かではないので、霊水に沈めたままだ。
「そうは言うけどさ。こんだけ、霊水浴びてるんだ。回復は早まるんじゃないのか? 静晰。」
「そういうものてはないそうです。」
「ええ、そうですよ、青飛。深雪が使うのは神通力ではありません。自身に眠る超常力です。霊水によって回復するという類のものではありません。・・・さあ、これを届けてください。」
 さっさと書状を作った上元が、それを差し出している。ちぇっと呟いて青飛も立ち上がる。



 しばらくして、ようやく一組の夫婦が、西海の宮に到着した。奥方のほうは、予想通りだったが、夫のほうは予想外だった。
「召喚を受けました薬師でございます。」
 その挨拶に、上元も静晰も深く叩頭した。薬師も何も、崑崙の最高位の学者様で、西王母の夫でもある方だったからだ。
「私くしは、深雪様の乳母にございます。簾公主様より命じられて、深雪様の世話にまかりこしましてございます。」