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雌雄の神話

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 リノリウムの床が蛍光灯の明かりに照らされ鈍く反射する。
 病室には、先程までいた医師や看護師たちの静かなざわめきが残っているようだった。
 二つ並んだベッドには、男と、女が横たわっている。彼らは夫婦だった。先日、円山界隈で交通事故に遭い、病院に運ばれたのだ。
 しかし、懸命の治療の甲斐もなく、彼らは今もう動くことはない。
 いまわの際に立ち会った彼らの子らは、泣き崩れ、動くことができなかった。
 いくらか経ち、泣きやんだ一人の子が被せられた白い布をめくり、冷たくなってしまった両親を呆とした面持ちで眺める。
 その子が、もう一人の子に呟いた。
「でも、二人一緒で良かったのかもしれない。」
「どうして?」
「だって、二人なら寂しくないでしょ?」

「ほら、お母さん、笑ってるじゃない。」


作品名:雌雄の神話 作家名:紺野熊祐