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真朱@博士の角砂糖
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即興小説まとめ(2)

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3.兄が死んだ


兄が死んだ。
私は兄とはもう5年以上会っていなかった。
5年ぶりに見た兄の顔は、私の覚えているそれではなかったけど、それでもやはり幼少期の思い出がよみがえり、少しだけ泣いた。
私は今、兄が通っていた大学の、兄が所属していた研究室へ向かっている。
それは兄からの指示だった。
兄の実母から受け取った封筒。なんの飾り気もない、ただの茶封筒。その中にあった大学ノートの切れ端に、大学の名前、研究室の名前、それから、「8-L」という、なにかの番号が走り書きのメモのように書かれていた。
兄が私に何かを残したのなら、私にはそれを見る義務がある。
大学に着き広大な敷地の中から目当ての研究室を見つけた時にはもう日が沈み辺りは真っ暗になっていた。
私は兄の名前は出さず、研究室にいた学生に「8-L」の意味に心当たりがないかと尋ねた。
「ああ、これはパソコンの番号だよ。Lまであるってことは第4情報分析室だね。8列目の、窓側の一番端だと思うよ。」
私は彼に教わった第4情報分析室に向かう。それはこの棟の5階にあった。廊下の電気が消えていたがスイッチの場所などわからないのでそのまま進む。非常口を示す緑色の光に照らされ、その向かいに、第4情報分析室はあった。
教室後方のドアをそっと押し開ける。無数の画面が闇のような真っ黒な目で一斉に私を見た。私は教わった通り、窓際の列を、前から順に数えた。1、2、3、4、…。
8列目は、後ろから3列目だった。私はゆっくりと8-Lに向かった。8-Lも、他のPCと同様吸い込むような黒い画面で私を見つめ返している。ついに8-Lの前に立ったその瞬間だった。ヴン、という音がして、8-Lがまばゆい光を放ち、私を照らした。
私は突然の光に目を細めながらその画面の中を覗き込んだ。
「おにい…ちゃん……?」
画面になにが映っていたわけでもない。
なぜそんな言葉が口をついて出て来たのかもわからない。
兄は死んだ。
しかし私には、闇を切り裂いた8-Lのその光が、なんだか懐かしかったのだ。