小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

王都バルムンク物語

INDEX|7ページ/7ページ|

前のページ
 

「少しだけかな」
 バージルは自分でもよくわからない、ほの暗い感情が住み着いていたことに気づき始める。
「少しだけだよ・・・・・・相手も人間だし・・・・・・」
「きれいごとか、けっ」
 シグフリードの気持ちもわかる、とバージルは想うのだが、彼ほどに割り切れない。
 だからバージルは、自らの決断力の弱さにうなだれるのだ。
「まあ、あれだ。くよくよしても仕方ない」
 ライムがバージルを励ました。
 彼はこういうとき、兄貴のように頼れるんだ、とバージルはライムのやさしさに感謝した。
「ありがとう。ライム」
「だいじょうぶだ。バージルに万が一のことがあったら、あたいが敵の戦艦に大砲をがんがん撃ちこんで、ぶっ殺す! はっはぁ〜」
「いや、あの、サラ・・・・・・は、張り切らなくていいんだよ・・・・・・」
 ライムがサラの勢いに、思わず発した言葉がそれだった。 


「次の目的は、シグフリードの国、シルバーランド」
 煬帝はバージルたちの船よりも数倍贅沢な装飾の施しをした軍艦の広間で、老人と密会していた。
 彼は老人の突拍子もない思いつきに、大変な動揺を見せ始め、
「なにっ、シルバーランドも襲うと」
「問題でもおありかな」
 煬帝は老人に心のうちを悟られまいと、必死に否定する。
「いや、なんでもない」
「あの国を拠点にすれば・・・・・・、なにしろシルバーランドは世界の中心点」
「う、うむ。そ、そうだな」
 老人ハーヴィは、煬帝の心の不安定さを既に悟っており、忍び笑いをもらしていた。


「俺は天帝だか、なんだかしらねえが、あの煬帝が憎たらしくてしかたない。だから、刺し違えても殺すって決めたんだ」
「煬帝って何者なの?」
 再び海上。
 朝まで濡れていたが、半日もすると天日でからからに乾いた甲板の上、バージルはまだ、煬帝の存在に気づいていなかったので、シグフリードに尋ねていた。
「煬帝とは、東を牛耳る極悪人さ。俺たち北海のものを、えらくお気に召さないらしい。そのおかげで漁業についても商業についても、けちや難癖をつけてきやがる。きったねえ野郎だよ」
 ライムは、それでシグフリードは怒りをあらわにしているのかと、ようやく事情が飲み込めた。
「親父は、やつの毒牙にかかって、殺された」
 バージルは呼吸を呑む。
「そんな顔するな。あいつは俺の、最大の仇」
 シグフリードは苦しそうに息を吐いた。
「でも、殺すよりも、何かいいほかの方法がないかな」
「ねえよ! ねえから殺すっていってんだろ!」
 突然の叫びに対し、バージルは青ざめ、硬直する。
「お前、ついてくるのは勝手だが、邪魔だけはするなよ」
 野生独特のにらみを利かせ、シグフリードは床を蹴るようにして乱暴に歩き、船室のドアを開いた。
「おっかねえ。あれが北海の獅子ね。まるで獣だな」
 ライムが毒舌を言うと、バージルはひざを抱えて顔を伏せた。
「いつものくせだなぁ。そういう辛気臭いことをするなと、あれほど言ってるだろう。元気出せ」
「うん・・・・・・」
 とは答えてみるものの、やはり気持ちが晴れない。
 世の中の摂理というが、人はなぜ、何かを犠牲にして生きるのだろうか。
 神ですら、その材料にする。
 バージルは、この世で一番恐ろしいものは何であるか、回答を、エルダに今こそ、告げられそうな気がし、鬱々としてしまうのであった。  


 
 シグフリードは船室の一角にある部屋で転寝をしており、シルバーランドの仲間たちとの再会を、夢の中で果たしていた。
 煬帝との決裂。
 交渉に行ったギルド(組合)のひとりが、ずたぼろにされ、傷だらけで戻ってきたとき、シグフリードは腹の底が煮え繰り返りそうになるほど、苛立ちを覚えた。
「王子様。もうだめです。交渉は決裂、となれば、道はひとつですぞ」
「叛乱か」
 ギルドの仲間や王宮の者たちが、一斉にうなずいた。
「ご決断を」
 シグフリードは右手を掲げ、一時はみなの怒りを静めようとつとめた。
「まあ待て。せいてはことを仕損じる、というぞ」
「では、どうするおつもりで、ジギーさま」
「ふん・・・・・・」
 ジギーとはシグフリードの愛称で、国の民にはこの名で呼ぶことを許していた。
 彼は玉座に腰掛け、頬杖をつき、よい知恵がないものか思案する。
「よし――」
 王は立ち上がり、愛剣を鞘ごと持ち上げ、頭上へ掲げた。
「この剣で、やつと交戦する。ただし」
 シグフリードは、剣を腰のベルトに差し、
「ただし、戦うのは俺ひとりで十分だ。手出しするなよ」
 王宮内にどよめきが沸き起こる。
「そんな、ジギーさま。いくらなんでも。おひとりでは無茶すぎる」
「そうですよ、せめて誰かおつきの兵士を」
「いらぬ」
 聖剣グラムを鞘から抜き放ち、剣の切れ先を床に突きたて、騒ぎを鎮める。
「いらぬと申しておる。それとも何か。・・・・・・てめえら、俺様があいつに勝てねえと思ってんのか、ああ?」
 その場にいた誰もが、いいえ、とんでもない、陛下は最強ですと答えていた。
 否、正確に言うと、答え『させて』いたのだろうか・・・・・・。
「よろしい。馬の用意を」


 こうして、煬帝を倒す旅路に向かうシグフリードだったが、バージルに会ってから、どうにも調子が狂いっぱなしだった。
 なぜか、止めを刺すことをためらうようになってしまう。
 シグフリードが目覚めると、バージルが毛糸で編んだケープを肩にかけ、首をかしげていた。
「風邪を引くと思って、ケープを・・・・・・」
「いらん世話だ」
 シグフリードはケープを剥ぎ取ると、バージルは小さく微笑みながら、
「そのようだ。たしかに余計な世話だったね」
 その場を立ち去ろうと背中を向けた。
「待て」
 シグフリードはバージルを呼び止めると、
「その、なんだ、俺のこと、俺のことな」
 バージルは不思議そうにして振り返る。
「俺のこと、ジギーと呼んでもいいぞ」
 バージルは、真っ赤な顔をしてうつむくシグフリードに、うなずいてこれを答えの代わりとした。



作品名:王都バルムンク物語 作家名:earl gray