カーテン
外は、暖かさよりも、蒸し暑く感じた。暫く歩いていると、流れるほど汗はかいてはいないものの、腕の表面がじっとりしている。
それなのに キミの涼しげな顔はなんだ。周りの空気が違うとでもいうのか。
ボクは、キミの頭の上に手を置き、その手で自身の頭の上にも置いた。
当然ながら、気温に差があるとは思えなかった。キミが不思議そうな顔でボクを見上げたが、ボクはさりげなく知らぬ振りをした。
ボクは、原稿の封筒を郵便ではなく、直接担当者の手に渡るように宅配会社へ持ち込んだ。
ボクが先方への送り状の記入の間、キミは店内の見本品を見ていた。
「お願いします」
ボクは、受付の女性に渡すと、キミに どうした? と口を動かす。
返ってきたのは、キミのあどけない笑顔だけ。あとで 聞いてみよう。
「お待たせ」
店内から出て、数歩ほど歩くと、キミはわかっていたかのように話し始めた。
「何でも送れちゃうね。いくらかなぁ…」
「キミは、送れないよ。コワレモノ扱いだから ははは」
その後にキミは何も言わない。呆れたのではない、たぶん納得したんだと思う。
そんな単純にも思える可笑しなところが、可愛いと思ってしまうボクも相当単純だ。
そこから十分ほど歩いたところに その店はある。
カーテン、じゅうたん、クッションなど。あのカーテンを買ったのも、リビングの敷物を買ったのもこの店だ。
店内は、冬向きの品の特売と、夏用のラグなどの商品で溢れていた。
此処から、気に入るものが見つかるだろうか? ボク一人では、目移りして迷いそうだ。
「どう? 気になる柄はあった?」
キミの後ろについて行くボクは、辺りをきょろきょろ見るばかり。
見本で吊るしてあるカーテンの林。虹の彩りのように棚に置かれたカーテンの壁。
そよ風の流れのようなレースカーテン。外国映画のお城に出てくるような煌びやかなカーテン。(さすがに これがいいとは言わないだろうな)
「すごいね。綺麗」(おいおい…まさか…)
「ん…(カーテン)レールが落ちちゃうかもね。パス」(ほっ、まあ何にしても良かった)