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海竜王の宮 深雪  虐殺3

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 季廸は、どこで何が商いされているかも熟知している。火薬は水晶宮にもあるだろうが、大量に持ち出せば、水晶宮の官吏も不審に思う。内密に奪還するとなると、そこいらは別調達が必要だ。
「金は、これで足りるか? 」
 簾は身に着けていた金の入った袋を季廸に投げて寄越す。重さで、中身を把握すると、「足りない分は、ツケにしておくさ。」 と、さっさと飛び上がった。



 簾のほうは、水晶宮に急いで戻り、報告する。予定の十日よりは早い時間で戻った。報告に、やはり、と、水晶宮の主人は顔色を悪くする。西海の宮に竜王は不在だった。どこにも、白竜王の姿は確認できていなかったからだ。
「手勢が足りない。広、信用の置けるのを三百、貸してくれないか? 」
「おまえ、自分だけでやるつもりか? 簾。」
「おまえは動かないほうがいい。竜族長が参戦していたと知れたら、即開戦だ。それは避けたほうがいい。」
 できるだけ内密に、というのが基本だ。大きな戦なんて、竜族はやりたくない。シユウのちょっかいを適当に流す程度にしておかないと、戦乱は神仙界中に広がってしまう。元々、シユウと竜は、黄帝の御世から敵対していた。その頃は神仙界も二分される勢いだったのだ。他の種族まで巻き込んで被害を出せば、今度こそ、どちらかが滅びるまで戦うことになる。そんな混乱は竜族としては、御免蒙りたい。
「では、季卿と仲卿を連れて行け。あれなら、役に立つ。」
「だから、それだけじゃ足りない。陽動で、あちらの王を宮城から引き剥がすには、そちらにも人員が必要になるんだ。」
 簾は、すでに奪還計画も練っている。しかし、だ。白那が、声をかけた。確認は、そこだけではない。
「簾、叔卿は、その・・・生きているのかね? 」
「は? 義父上? 」
「いくらシユウの宮城とはいえ、脱出できないものだろうか? あれは、現竜王でも一番力のある竜王だ。拘束されたぐらいでは、大人しくしていないだろう。・・・・何の騒ぎも起こらず、大人しくしているのはおかしい。死んでいるのなら、意味がない。」
 一番の確認すべきところは、そこだ。死体なら奪還する必要はないのだ。
「一応、情報から察しますに、まだ存命はしているはずです。ただ、四肢が無事な状態かまでは確認できておりません。」
 手足の一本くらいは斬り落とされているかもしれないが、生きてはいる。それは、情報からも明らかだ。動けないのは、そういうことだろうと推測できる。
「そうなると、これだけ時間が経過していれば死んでいる可能性も出てくるわけだ。」
 あれから、一週間だ。それだけの時間となると、生死に関わってくる時間でもある。
「父上、つまり、計画の意味がないと申されますか? 」
「いや、そこまでは言わないが・・・もし、死んでいる、あるいは四肢を欠いている状態だとしたら、長くは保ちはすまい。その確認をしたほうがいいと思うのだが? 」
「ですが、その確認にも時間がかかります。奪還するなら早いほうがいい。」
 瀕死の状態だとしたら、一刻も早く奪還すべきだ。生死の確認をしている猶予がない。それに相手は、王と、その血族だ。簾にも危険な計画ではあるのだ。下手をして、白竜王と、長の正妃の両方を失うわけにはいかない。
「ですが、あなた様。伯卿の申すことのほうが・・・生きているのなら取り戻すべきです。」
 是稀にとっては大切な息子だ。どんな姿であろうと取り戻したいのが本音だ。
 そこへ、ふわりと小竜と華梨が現れた。小竜が華梨を伴い、跳んで来たらしい。簾の肩に手をかけると、小竜は、じっと目を閉じて意識を集中する。簾が知っている宮城までの場所を確認して意識を飛ばせば、そこに生きている竜の波動がいくつも確認できる。その中には、ちゃんと三兄の波動も存在している。
「「「深雪」」」
 三人が咎めるように叱責するが、それは華梨が止めた。しっと人差し指で自分の口を閉じる。
「生きてるよ、三兄。・・・それから、俺が行くよ、お父さん、お母さん。」
 目を開けて、小竜が父親の前に浮かんで視線を合わせる。簾の波動が戻ってきたので、深雪は華梨と共に、こちらに現れた。事態は把握している。そんな大掛かりなことをしなくても、小竜ならできることを伝えに来た。少し時間があったのは、先に華梨に説明していたためだ。




「華梨、三兄は生きていて欲しい? 」
「もちろんですっっ。ですが、あなた様を危険に晒すような真似はできません。」
 きちんと、今起こっている事態を説明したら、許婚は首を横に振った。確かに、小竜にはできるかもしれない。だが、体力がない深雪が、そこで力尽きて殺されたら、華梨も生きていられない。竜の理は、残酷だ。深雪が死んだら、華梨も殺されて新しい黄龍を、是稀に生んでもらわなければならない。
「うーん、まあ、力尽きた場合が問題だから、誰か行ってもらわないといけないかな。」
 それなのに、小竜は暢気に考えて笑っている。なぜ、そんなに余裕があるのだ。相手は、あのシユウだ。純粋な腕力だけなら、シユウのほうが勝っている。武術も未熟な小竜では、討ちかかられたら、それだけで命は事切れる。華梨の心配に気付いたのか、ふっと笑みを浮かべた。
「あのね、華梨。俺は、何も無茶をするつもりはないんだ。宮城に入らなくても、外から三兄を外へ跳ばせばいい。俺には、それができる。」
 従者が何人居るのか、そこがわからないから一気には跳ばせないだろうが、三兄だけなら簡単なことだ。竜の領域でない場所では、人型は取れない。つまり、それは竜体の大きな力が使えるということでもある。確かに、体力的にはキツイので、力が尽きたら眠り病にかかるだろう。そこは、簾にフォローしてもらえばいい。
「ですが、背の君。あなた様が・・・もし・・・」
「華梨、ちょっと命懸けにはなるけど、必ず帰ってくるよ? きみにも命を懸けてもらうことになるけど、信じてくれ。最悪は三兄だけになるかもしれないけど。とにかく、やってみようと思うんだ。」
 華梨の本音は、叔卿が無事に戻って欲しいと願うものだ。ただ、深雪に無理をさせたくないのも本音だ。
「私も参ります。」
 ならば、自分が手伝えばいい。
「ダメだ。華梨は連れて行かない。・・・・きみの姿は逆に目立つ。遠くからでもバレる。」
「背の君、あんまりです。私は役立たずになりたくありません。」
「役立たずじゃない。水晶宮に逃げ込んだ後、シユウが追っ掛けて来たら、援護はしてもらうよ? だから、竜の領域ギリギリで待っていて。」
「イヤです。」
「でも、俺、華梨まで守るのは無理だ。・・・きみは自覚がないだろうけど、きみは最後の切り札だ。他のものは、きみを守る必要がある。追いかけっこの最中に、そんなことに気を取られたら、そのものは死ぬ。」
 ズシンと胸に痛い言葉を受けた。いつもは、ぽわぽわしている小竜だが、こういう時は容赦がない。確かに黄龍は守りの要だ。竜族最強と謳われている。だからこそ、他者との戦いには参戦できない。万が一、黄龍に何かあれば、それは竜族の士気も貶めるものだからだ。
「あなた様だって、前線に立たれる立場にはございませんよ? 」