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ひづきまよ
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novelistID. 47429
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サキコとおっさんの話12

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■本日ちょっと秋晴れ。

 いつものコンビニの自販機前、相変わらず不釣り合いな二人組はしっかりと定位置に。
 おっさんは灰皿を前にして会社からの健康診断の結果の封書を開き、気難しそうな表情をしていた。
「何それ?」
 サキコはベンチに座ったまま、スマホ片手にしてそれほど興味なさげに彼に聞いてみた。
「健康診断の結果発表だよ」
 その言葉に、サキコは「何!?どんな事書かれてんの?肺とか真っ黒ですとか?」とベンチから立ち上がる。確実に何かを期待しているような顔をしていた。ひったくろうとしていたその小さな手を払い、おっさんはやかましい!と一喝。
「なんだっけ!めたぼ??おっさん血糖値高い?アルコール過剰摂取とかだろ!」
 他人事だと思って好き勝手言う若者。
 気にしないふりをしながら、地味に心に刺さる三十路。
 おっさんはその紙片をぐしゃりと握り締めながら、はぁっと溜息をついていた。
「不摂生ばっかしてるからかなぁ・・・」
 ぐったりとその場にしゃがみ込み、憂鬱そうな溜息を漏らしていた。知っているなら気をつけろよと呆れながら、サキコは「ばっかでー!」と更に追い打ちをかけた。
「大人は大人の苦労があるんだよ!」
「ほー!」
 お前にはまだ分かるまいと管を巻きそうになったが、まだ成人していないこの小娘に何を言ったとしても無意味なのだろうとぐっと我慢する。これからこの女も、学校を卒業したら世間の荒波に揉まれていくのだ。その時にやっと、自分の苦労が分かるはず。
 寛大な心で無礼を許してやろうじゃないか。
 大人として、一人の紳士として。
 おっさんは顔を上げ、すっくと立ち上がる。
「・・・何してんだ?」
 目を合わせたサキコを見下ろし、おっさんは怪訝な顔をする。彼女は両手で顔をむぎゅっと寄せながら、物凄く奇怪な顔を作っていた。元の可愛らしい顔が完全に台無しだ。
「変顔」
「あ?」
 指で目の下を伸ばしながら彼女は答える。
「ほらあ、ちょっとは気分が紛れるんじゃないかなって思って」
「・・・・・・・」
 いいから・・・とおっさんは彼女にやめさせた。彼女なりに励ましてくれているのだろう。気持ちだけで十分伝わった。いいよいいよと性懲りもなくタバコに火をつける。
 ぷかー、と煙を吐き出していると、目の前に一台のタクシーが停車した。
 黙って見ていると、中から酔っ払った綺麗目のOLが、まるで迷路から脱出するように飛び出てくる。同時に運転手も外に出ていた。心配そうにしながら、「お客さん!!」と声をかけつつ傍へ寄っていた。
「だぁああいじょうぶだってぇええ!!あたし帰れるからぁああああ!!あぁ、お金??いくらだっけぇえええ??」
 泥酔しすぎていて、呂律が回っていなかった。三十近い女は二人の前でへろへろになり、運転手に支えられながらコンビニへ入ろうとしている。
「ぁあああああくっそぉおおおあの糞ハゲ!!毎回人の粗探しばっかりしやがってぇええ」
「はいはい、分かったから!!あんたの家近いの?ちゃんと帰れるの??」
「おー!大丈夫っす!!あんな糞に負けねっす!!ここあたしの家だから!!平気っす!」
 よろよろとコンビニへ入って行くのを、二人は黙って見ていた。
 しばらくして、サキコはぼそりと呟く。
「・・・大人って大変そうだね」
 どうやらあの酔いどれ女を見て何か哀愁を感じたようだ。おっさんは「あぁ」とだけ呟くと、吸っていたタバコの火を消す。
「まぁ、そんな時もあるわな」
 相手をするタクシーの運転手にもちょっとだけ同情しつつ、彼は自分が大人になってしまった寂しさを感じていた。

 時刻は既に二十時を指そうとしていた。