クロという青年
青年は、帽子をかぶり直し軽く衣装を整えると、傘を手に取り軽くくいっと引き上げた。
それだけで大した抵抗もなく彼が釣り上がる。
「お、戻ってきたのか。残ったって良かったのに。で、どーだった?」
「…元気そうだった」
「そりゃ良かった」
「…」
「…今からでも依頼内容変えられるぞ?」
「っ…」
「どうだ?」
「………いや、今のままでいい…」
「…そうか」
しばしの沈黙。
「…帰れるか?」
「………あぁ」
すっと立ち上がった彼の顔からは、感情というものが失せていた。
それは覚悟を決めた姿だったのか、それとも。
「…行こう」
その言葉を合図に、すべてがさっと消え失せた。
彼の身体から傘を引き抜く。
切っ先についてきたのは青白い珠。
「…さて」
それは想像通り極上の魂だった。なかなか出逢えない最高ランクの食事。
「でもだからこそ…なぁ」
そう言って青年は再び息を吐く。
「…いやいやよく考えろよ…わかってんだろ…」
何かを思いついた青年が、その考えを振り払うように頭を振って、そのまましばし動きが止まった。
そして、結局最初の考えに立ち戻った青年はうずくまって頭を抱えた。
「……あああくっそ!」
うめきながら立ち上がる。
「恨んでやる!ああ恨んでやるぞ!俺を甘い奴にしやがって…」
誰にともなくそういうとパン!と頬をたたく。
「しょうがねぇ、行くぞ!腹くくれクロ!」
そういうと青年は大きく傘を振り下ろし、綺麗にその場からかき消えた。
まったく、大変だったんだぜ?
俺が喰ったら転生しなくなるってんで、わざわざ天敵の死に神に見つかりにいってわざわざ彼の魂を刈らせたんだから。
マジ死ぬかと思った。危ない橋渡りすぎ。
…うるせぇな、俺もたまには気まぐれ起こすんだよ。ほっとけ。
…あ? いいじゃねぇかよ、ちょっとくらい謎が多い方が…えーと、愉快で。
多すぎ?…うるせぇなぁ…
…あそこはまぁ、わかりやすく言うと魔女狩りのある世界だ。彼はごく普通の超能力者だったんだが、そうじゃない人には魔法も超能力も一緒ってわけで。
その状況をなんとかしようと革命を起こそうとして取っ捕まり、仲間と一緒に処刑待ちの投獄されてたんだよ。
これで満足か?…宜しい。
ということで、この話も一先ず終い。
他の話に関しては、また縁があればってことで。
余談だが、その世界では後に起こった革命が成功して国家転覆したらしいんだが、そのトップだった男だけはその場で捕縛されずに後日、奇妙な姿で発見されたんだそうだ。
鼓動もあり脳も正常なのに、生きてはいない、奇妙な姿となってな。
その表情はまるで、悪魔か何かを見たように歪んでたそうだ。
気まぐれだよ、気まぐれ…