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海竜王の宮 深雪  虐殺1

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「よくお言いだね? あなた様。・・・何度も、麟を召還していただろうに。その際も、私には内密にしたではありませんか? 」
「だって、あなた様まで紹介したら、いくら麟でも気付きます。ですから、お教えしませんでした。そんな古いことは、お忘れくださいな? 今度は堂々と構ってやれますよ? それも水晶宮の次期様です。なんて晴れ晴れしい便りでございましょうね。おほほほほ。」
 元気でやっています、という便りだ。人間として、その生を謳歌しているから、そんな縁が起こる。碧の魂は、そんなことは知らない。だが、両親には、ちゃんと届いている。何があろうと、今度は永く付き合える関係を築きましょう、と、妻と約束はした。



 小竜の私宮の庭で、カツンと木刀が合わされる音がする。対しているのは、その小竜と、その義理の姉だ。
「違う、もっと、刀に力を乗せるんだ。ほらっっ。」
 振り下ろした小竜の木刀を軽く弾いて、簾が、逆にゆっくりと振り下ろす。それを刀で受け止めた小竜は、ぎゃっとその刀ごと、前にひっくり返った。刀に力を乗せられると重すぎて、とても受け止められない。だが、小竜のほうも負けん気は強いから、すぐに立ち上がって構える。
「好きなように打ち込んで来い、深雪。ただし消えるな。」
「わかった。」
 まだ、廉の身長の半分もない小竜だが、他の同世代の竜よりは飛べる。少し後退さって、そこから飛び上がり、廉の背後に廻る。そこから、刀を横になぎ払う。スピードはあるが、廉は振り向きもせずに、それを片手で受けた。
「そうだ。それは、なかなか、いい手だ。だが、私のような腕のものなら、気配で防御できる。」
 はははは・・・と大笑いして、振り向いたら、小竜は、ぷぅーと膨れっ面になっている。それから、また、がんがんと木刀を廉めがけて振り下ろしているが、悉く防御される。何度もやっていると、小竜は、息が上がって浮いていられなくなって落下した。
「体力の問題は、時間がかかりそうだな。少し休憩しよう、蓮。」
 傍に控えている蓮に、木刀を渡すと小竜を抱き上げる。ひーひーと肩で息をしている。寝込むことは減ったものの、同世代の竜と比べても、小竜の体力はない。ちょっと練習すれば、この通りだ。無理をすると、翌日に熱を出すから、そこいらの加減は廉も考えている。
「・・・・苦しい・・・」
「ああ、落着くまでは、じっとしていろ。」
「・・もっと・・・」
「落着いてからだ。」
 このまま抱いていれば寝てしまう。いつものことだ。だが、小竜は、しばらくしてビクッと身体を震わせた。そして、廉も上空の気配に気付いて見上げる。一人の初老のものが、ゆっくりと、こちらに降りて来るところだった。
「小竜、おじいさまだ。怖がらなくていい。」
「・・・やっっ・・・・」
 小竜は、どうも男性陣というのが苦手であるらしい。兄弟には、反応しないが、どうも他の男たちは怖いらしい。ゆっくりと降り立った相手は、「ごきげんよう。」 と、挨拶しつつやってきた。
「お久しぶりでございます、父上様。」
「廉、久しいことだ。蓮貴妃も息災で何よりだ。・・・・ごきげんよう、深雪。じぃじが会いに来たのだが、挨拶はしてくれんのかね? おまえの好きな飴を持参したのだが、味見してみないか? 」
 何度、顔を合わせても小竜が懐かない。それで、東王父も考えた。甘いもので釣ると、少しだけ顔が拝めることが判明したので、やってくる時は、必ず、飴を持ってくる。今度も、懐から取り出した飴を眼の前に出してやると、受け取った。
「ありがと、じいちゃん。こんにちわ。」
「はい、こんにちわ。今日はブドウの飴だが、いかがかね? 」
 ぱくんと口に放り込んで、むぐむぐと舐めて、小竜は、こくんと頷く。おいしいということらしい。
「でも、りんさんはいないよ? 」
 唐突に、小竜は、そう言ったが、東王父のほうも心得たものだ。あなたの息子はいないのに、それを期待している、と、指摘されているのだ。本来は、他人の心など読んでも口にしてはいけないが、ここにいるものは慣れている。
「すまないね? 深雪。おまえを見ていると、息子のことが思い出されるのだよ。だが、おまえを見ていると、あれが元気にしているのが解って嬉しくなるのだ。いないことは承知している。」
「・・・りんさんは・・・でも・・・」
「ああ、それも解っている。林太郎殿は転生された。もういらっしゃらない。だが、おまえが生きている限り、私は、あの息子の魂が元気にしていると思えるのだ。・・・・深雪の心に林太郎殿はいらっしゃるのでね。」
「・・・うん・・・俺も、そう思う。また逢う約束したんだ。」
「ほほほほ・・・そうかい。それは良いことだ。」
「次は、本物の親子をやろうって。」
「おまえたちは本物以上に本物の親子だったと思うんだが、違うのかな? 」
「・・・今度はね、ちゃんと最初からやろうって。俺、途中でリタイヤしちゃったし・・・生まれて5年もしてから拾ってもらっただろ? そうじゃなくて、りんさんの子供に生まれて、ちゃんとりんさんを見送るまでやろうって話なんだ。」
「そうかい、それは遠大な計画だ。まず、おまえは竜としての寿命を真っ当しなければならないから、先は長いね。」
「そうだな。でも、いつか会えるんなら、それでいいって、俺は思うんだ。今度は、ちゃんと、りんさんの老後の面倒も看てやりたいんだ。ひとりで眠らせるのは寂しすぎるよ。」
「それは次の世だ。その気持ちだけ忘れなければ、為せることだ、小竜。」
「・・うん・・・じいちゃんの息子は、次にどうなるんだ? 」
「さあ、私は知らないんだ。おまえのばぁばは知っていると思うから、今度、現れたら聞いてみるといい。でも、林太郎殿ではないよ? 林太郎殿は、おまえのここにいらっしゃるんだから。」
 トンッと東王父の手が、小竜の胸を軽く叩く。転生する息子の魂の行方は、もう追いかけていない。妻は、きちんと追跡させているが、何かあったら教えてくれるぐらいのことになっている。追いかけて眺めるよりも、いつかまた酒を酌み交わすつもりのほうが、心地良いからだ。好きにやって、たまに便りをくれる。そんなほうが楽しい。
 ちょっと会話が止まると、小竜の口から飴が零れた。そして、廉の腕にかかる荷重が増す。疲れて眠ってしまったらしい。
「廉、ちょっと寄越しなさい。」
「はいはい、父上も、小竜には甘いな。」
 凭れて目を閉じている小竜を、廉が東王父に手渡す。ああ、少し重くなった、と、喜んであやしている。崑崙一の学者の姿ではない。ただの孫バカの祖父に成り下がっているので、廉も苦笑する。まあ、わかるので、ツッコミはしない。あのバカ仙人の養い子となれば、誰だって可愛がるには違いないからだ。
「ちゃんと別れはできたんだね? 廉。」
「その代わり、こちらは大騒ぎでしたよ。小竜が眠り病で目覚めないし、華梨が呼んでも起きないし・・・原因がわからなくて。」