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でんでろ3
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口は幸いのもと〈第1話 バスの旅〉(地味に改稿)

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まーこが高校に行きたくなくなったのも、彼女の奇妙な能力のせいだ。
 まーこが言ったことは事実になってしまう。一見便利なようなこの能力が、彼女を苦しめた。

 高校の国語の時間、先生に当てられたまーこは
「ノドから手が出る」
と答えた。
 それは、答えとしては正解だったが、問題は、その瞬間、まーこのノドから(ビジュアル的には口から)、ニョキッと手が出てしまったことである。折悪しく気絶する女子生徒も出るほど精巧に作られた腕を口にくわえたその姿から“まーらいおん”というニックネームで体当たりVFX芸人の座を不動のものにしてしまった。

 その日、まーこは古書店街に向かうバスに乗っていた。
 全ての引き籠りが、ネットだけで用事を済ませられると思ってはいけない。まーこは、引き籠って、古書を読む。そして、その古書は、自分で、古書店街に行って選ばなければダメ、というこだわりを持っていた。

 突如、まーこの後ろで派手な服装を着崩したまま直そうともしていない女子高校生が大きな声で携帯電話で話し始めた。それは、下品な内容で、際限なく続くかとも思われた。
 まーこは、小さく1つ咳払いをすると、席を立った。そして、その女子高生に向かって、にっこり笑って、
「車内での携帯電話の通話は禁止です」
と言った。
 すると、女子高生は、一言謝って、すぐさま電話を切ると、カバンに仕舞い込んだ。

 まーこは、気分が良かった。面白かった。
 まーこは少し大胆になった。
「皆さんは、身長の順に席替えします」
すると、乗客たちは、お互いの身長を比べあったり、教え合あったりして、身長の低い順に席替えをした。
「皆さんは、次に、名前の順に席替えします」
すると、乗客たちは、お互いの名前を教え合い、50音順に席替えした。
 さらに、悪乗りしたまーこは、リンゴだ、バナナだ、パイナップルだと、割り振ると、フルーツバスケットをさせてみた。
 それでも、飽きたらず、更に、何でもバスケットまでさせてみた。
 まさに、気分は女王様だった。

 そのとき、マイクを通して、運転手さんが、言ってきた。
「お嬢ちゃん、危ないよ。その言い方じゃあ、私まで運転放り出して席替えに参加して、大事故になるところだったよ」
「あっ、すっ、すみませんっ!」
反射的に謝り、自分の犯した過ちに青ざめてから、冷静になって、まーこは思った。
(なぜ、そうならなかったの? なぜ、それを知っているの?)
「たぶん、今、お嬢ちゃんは、いくつかの疑問を感じたろうが、答えは一つで解決できるよ。それは、僕が、君より強い能力者だからだよ」

 運転手がそう言った瞬間、バスは物凄い勢いで加速して、右へ左へと大きくスラロームし出した。
「いっぺん、これ、やってみたかったんだよなー。今、このバスの行先表示版には『SOS』って点滅してるぜー! ピン・ポン・パン・ポーンっ! ご乗車の皆様、今日は私が皆様を恐怖のミステリーツアーにご招待いたしまーす。終点に着くまで、お降りになれませんのでご注意下さい。もっとも、終点に着ければのお話ですが……。さぁ、泣いて震えているがいい。おっと、くれぐれもお怪我の無いように、しっかりどこかにつかまりなっ」
その瞬間、運転手はハンドルを急回転させた。バスもまた、回転しながら、折しも差し掛かった大きな交差点に突入していく。
「頭文字Dィィィィィィィィィィ!(イニシャルディー)」
そう叫びながら、右足つま先でアクセル、踵でブレーキを操り、左足のクラッチ捌きも鮮やかに神速でシフトチェンジ、右手で大きくハンドルを切ると、路線バスの巨体は滑りながらも180度回転していく。屋根の上に、ぽっこりと突き出たタンクで重心が高い。車体が大きく外に振られながらも、タイヤがアスファルトに黒い焦げ跡と異臭を残しつつも踏ん張る。結局、なんとか、ターンを決めた後、つい先ほどまで、対向車線だった道に飛び込んでいった。
「マニュアル車っ最っ高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
運転手のボルテージは最高潮に達していた。

 まーこは、震えていた。他の客たち同様、震えていた。あの男が震えていろと言ったから? いや、たぶん本当に怖いから。
(でも、なんとかしなくっちゃ。それが、できるのも、たぶん私だけ。)
「手のひらに『人』と書いて舐めると、震えが止まります」
まーこは、そう小声で言うと、その通りにした。体の震えは止まった。
「運転手さん、どうしてこんなことするの?」
まーこは、大きな声で尋ねた。
「あぁん? お前が聞くのか? お前なら分かるだろうが? もう、我慢するのは、うんざりなんだよ。今日で、終わりにしてやる! こいつら、巻き添えにしてな!」
(この男、本気だ)
そのとき、まーこは、悟った。

 無意識に、辺りを見回すまーこの目に両隣の乗客のエコバックの中身が目に留まった。
(危険すぎる。でも、この男に対抗するには……)
「この飴をなめると、早口言葉が上手く言えます」
そう言ってまーこは、持ってきた飴をなめた。
そして、1つ深呼吸をしてから、運転手に聞こえるように大きな声で、右隣の客に向かって、
「隣の客はよく柿食う客だ」
と言った。すると、まーこの右隣の客は、自分のエコバックに入っていた柿を貪る様に食べだした。
そして、また、まーこが、運転手に聞こえるように大きな声で、左隣の客に向かって、
「隣の客はよく柿食う客だ」
と言うと、まーこの左隣の客も、自分のエコバックに入っていた柿を貪る様に食べだした。

 その一部始終を、ミラー越しにチラ見していた運転手は、
「……なるほどな、確かに、このバスは、ガソリンじゃなくて液化ガスを燃料として走っている。その挑発、乗ってやろう……」
と言った。そして、『バスガス爆発』と続けるつもりだった。しかし、口から出たのは、
「ブスガクガス発」
というものだった。
 運転手が「噛んだ!」と言ったのと、まーこが「かんだ」と叫んだのが同時だった。
次の瞬間、バスは光に包まれていた。
しかし、数秒後、光は晴れ、バスは着地した。
バスは、終点「神田」に着いていた。
「バスのドアが開いて、お客さんは一瞬にして全員降ります」
間髪入れずにマーコが叫んだ。
次の瞬間、マーコ以外の乗客はバスの外にいた。

 しかし、最後の客が車外へと出た瞬間、ドアは閉じられ、運転手がゆっくりと運転席からまーこのところに向かってきた。
「やってくれるじゃねえか、小娘。他の客は大目に見たが、お前は許さねぇ。このバスは、1分後に炎に包まれる。ドアは開かない。窓も開かない。ドアは壊れない。窓も壊れない。お前さんは、壁や、床や、バス自体を、
壊すほどの力は持ってねぇようだ。俺の方が力が強いから、俺を服従させることもできない。さて、となると、お前の取れる行動は、1つだけだよな?」
(なんだろう? 泣いて許しを請えというのならそう言えばいいのに。)
と思って、まーこは、気付く、
(そんなことをしたら、この男の力でその通りになってしまう。それでは意味がないという事なのか。)
(でも、許しを請いて、本当に、それで助かるの? 自分も死のうとしているというのに。)