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刻印

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この公園の中央にある電灯のそばに、大雨の降る夜に一人で立っていると、出会えるらしい。
 盲目の男と、盲目の犬に。
 この男に頼むことで、手のひらに漢字を刻んでもらえるという。刻むという表現が、まあ噂に特有というか、よくわからない表現である。
 そしてこの漢字を口に出して唱えることで、自分の力を有りえないぐらいに引き出すことができるというのだ。
 馬鹿馬鹿しい噂である。
 どうしてこんな下らない噂がこんな進学校で話題になっているのかというと。
 それは受験のため、だろう。
 自分の力を有りえないぐらいに引き出せるなら、それこそ志望校なんて、何てことはない。余裕だろう。
 藁にも縋りたいわけだ。
 こうだったらいいのにな、というやつだ。
 もしかしたらという気持ちで、神社なんかにお守りをもらいに行く学生は後を絶たない。
 もしかしたらあるかも、あってほしい、そういう気持ちが、学生にはある。
「たんに手のひらに漢字を書いていただけじゃないかな。何というか信じられない話だし」
「でもさあ、そんなことするかなあ。あたしとしては、噂がホントだったと思いたいなあー」
「書いてあったんじゃなくて、刻んであったんなら、本物かも知れないよ」
「刻んであったって話自体がつくり話かもしれないよ一堂さん」
「綾ちゃん現実主義者だね」
 あいつの手のひらを見ていないふりをした以上、いまさら見たとは言えない。
 もどかしい。
 別にこの女に噂が真実だなんて知ってもらいたいわけではないが。
「でもさあ、先生殺したんだよ?それってやっぱり、手のひら見られちゃったからだと思わない?」
 亜由美は人殺しが目の前で起こったというのに、もう他人事といった様子だった。ニュースで殺人事件の話を聞いた時と感覚的に何も変わらなさそうだ。
 殺しの瞬間は教卓の陰に隠れていて見えなかったので、その点ではニュースで聴くのと大差はないのかも知れなかった。
「それは短絡的過ぎると思うけど」
 うまい話には必ず裏がある。
 鉄則だ。
 この噂も例外ではない。
 刻まれた文字を、他人に見られてはいけない。
 それがこのうまい話の、うまくない部分なのだ。

作品名:刻印 作家名:咲会伶俐