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プリン

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お料理の先生に習ったのだろう、味は、とても美味しかった。でも、食べるとバニラの香りは あまりしない。ボクはスプーンを口に咥えたまま、キミのほうへ体をずらし、キミを腕の中に包み込む。キミから漂う匂いのほうが、バニラの香りのようだ。
髪なのか? 試食した口? 作った掌?
ボクは、まるでご主人様を確かめる犬のようにキミの周りをくんくんと嗅ぎまわる。
「なに?」
キミのやや不安そうな声に キミを見つめる。
キミは、ボクの咥えていたスプーンを取って卓袱台に置いた。
「何だか 美味しそうな匂いがするなぁって」
「うそ。におわないでしょ?」
やっぱり女の子なのかな。におうと言われて気にしてる。(ごめん。嫌なにおいじゃないよ)
ついでに 唇に味見のキスをしてみる。
「んん…。食べちゃだめ」
「そ?」
「んー でもないかな」
「そ。やっぱりプリン食べよう」
「はい。あーん」
「今日は、しない」
ボクは、キミの髪をくしゃくしゃっぽんぽんと撫でてなだめると、残りのプリンを食べ終えた。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
うん、良かったと安堵したような キミの笑顔に、ボクの心にも美味しさが広がる。

キミを見ていると、幼い子がひとつできることが増えると喜ぶあの姿に似ている。
大人になって、ある程度のことができると、それで満足。まあ困らなきゃいいやと前進を停めてしまうこともある。
ボクも今のまま、別に知らなくてもいいかと投げ出したり、新しい挑戦を見逃したりしてきたことが恥ずかしく感じることがある。
先日の図書館で調べたことだって、実際に関わってみたら、もっと違った表現を思いついたかもしれない。
そういった精進する気持ち、もう一度湧き上がらせるのもいいものだと思う。

なんてことを思いながら、口の中に残る甘さを見つけているボクが居る。
バニラビーンズの甘い香りの黄色いカスタードプリン。
ただそれだけなのに……。


     ― 了 ―
作品名:プリン 作家名:甜茶