プリン
カーテンを開けたボクの仕事場兼リビングに色がある。
ジュースの紙パックに活けられたひまわりの花。
それを眺めながら 指先で花弁を揺らしているキミが居る。
それを眺めながら 暖かな陽射しを背中に感じているボクが居る。
キミの笑顔を見ていたいけれど、キミはすっかり自分の用事を忘れてしまっているようだ。
今日は何? それが知りたいボクだけれど どう切り出そうか。
「ところでボクは何を『待っててにゃん』すればいいのかな」
ボクは、その台詞を言いながら少し首を傾げてポーズを決めた。
キミの口元が苦しげな笑いを堪えている。少し無理をしたボクは恥ずかしい。
「……それ可笑しい。お!そうだった。待っててにゃん」
(わっ、可愛い やっぱり本家!と何を感心しているんだ……ははは)
キミは、立ち上がり、キッチンへと入っていった。
「ねえ、メールにもう少し…… んー例えば用件とか書いてくれると」
「要りますか?」
「いえ、要りません」
キッチンの端から覗いたキミの瞳に、ボクは一瞬で魔法をかけられた。
こうも簡単に答えてしまうなんて、情けないなぁと思うヤツもいるだろう。だけど、そうなってしまうんだよな。きっとみんな……などと勝手な憶測を浮かべ、何とか自分を肯定していた。
キミが冷蔵庫から持ち出してきた箱から甘い匂いがする。
やっぱりキミが運んできた香りだった。 …バニラビーンズの香りかな。
「さてと、冷えたかなぁ」
「あ、じゃあ手を洗ってこないと。ほらキミも」
はぁーいと妙に間延びした返事のキミは、幼子のように箱を見つめながら、ボクに背中を押されて立ち上がった。
ボクよりも早くリビングに戻って、ちょこんと座る。まあいいけどね。
「はい。じゃあどうぞ」
ボクに促し 箱を開けてみると陶器のカップにはいっている洋菓子だった。
キミが作ったの? そう、食べて。 そんな台詞のない動作をお互いにして見せた。
「いただきます……ん? おっ、旨い」
手作りらしい濃厚なプリンの味とその上にデコレーションがされていた。クリームにお店のロゴの書かれた紙切れが挿してあるように『*の手づくり』と書いてある紙切れが、親切で可愛い。