小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Bataille de la saison

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

《Automne》


 深紅の木の葉が舞い落ちる静かな森。その中に密やかに建つ白亜の教会がある。その存在を知る者は少なく、訪れる者もまた少ない。
 その教会で一人、祈りを捧げる者がいた。白い聖衣を纏い、銀のロザリオを首にかけて、ただ無心に祈っている。
 美しいステンドグラスから色鮮やかな光が降り注ぎ、白い聖衣を七色に染め上げる。その光の中で祈祷者は身じろぎ一つせず祈り続ける。
 ―――その目の前に現れたのは、神ではなく一体の巨大な黒き影。
 次の瞬間、地響きとともに教会の床がえぐれた。影が振り下ろした黒い戦斧が床を割り石の欠片を飛ばす。轟音は教会を揺らし、ステンドグラスをびりびりと震わせた。
 その重い刃の下に祈祷者の姿はなかった。捉え損ねた獲物の姿。それを探して影が上を見上げた先に。
 白い聖衣をなびかせて、宙を舞う祈祷者。その髪は白銀。手には輝く銀槍。極限まで磨かれた芸術品とも呼べる槍。その穂先を影に向けた。
 狙ったのは影の喉笛。空を裂き、銀槍を突き出す。しかし狙いは逸れ、影の肩口を抉るだけ。その傷も浅く、巨大な影にとって大きな痛手にはならない。
影の左手が祈祷者を襲う。それを避け、回転しながら槍で薙ぎ払う。銀槍は影の身体を斬り裂いたが、重傷を負わせるには至らない。振り下ろされた黒の刃を避け、腕を狙って突きを放つ。穂先は影の右腕を抉ったが、影は武器を離さない。
 影は戦斧を振り上げ、祈祷者を狙う。叩きつけるような凶刃を避けると、床が抉れて石材が飛んだ。影が振り回す戦斧は、床を抉り、空を絶ち、柱を削る。その隙をついて槍を振るったが、斬撃が届くのは表層だけ。影は巨体を揺らし、武器を振るう。
 宙を舞う祈祷者に重い斧の一撃が襲ってきた。銀槍で受けると甲高い金属音が響き渡る。槍が折れることはなかったが、衝撃で吹き飛ばされ床に叩きつけられた。息がつまり、身体が悲鳴を上げる。痛みをこらえて起き上がり、顔を上げる。
 影がゆっくりとこちらへ向かって来る。その姿は首切り斧を携えた処刑人のよう。いかなる人物であっても死をもたらす無慈悲な執行人。
 祈祷者は銀槍を静かに床へ置いた。
 膝をつき、両手を組む。頭(こうべ)を垂れ、静かに祈った。神に赦しを乞うように。最期の祈りを捧げるように。

 影が近付いてくる。重い足音を響かせて。
 黒い刃がぎらりと光る。獲物の血を求めるように。
 動かない祈祷者を見て、影は黒い斧を振り上げて―――

 祈祷者は顔を上げた。その瞳に苛烈な闘志を燃やして。
 一度手放した銀槍を掴んだ。輝く穂先を影に向けて。

 そして刃が振り下ろされる前に、祈祷者の手から銀の閃光が放たれた。

 閃光が捕えたのは影の心臓。暗い胴に穴を空ける。
 防ぐことも出来ず、影は倒れる。その身体は見る間に塵へと還っていく。

 乾いた音を立てて、銀槍が床に転がった。ステンドグラスから差し込む光が、銀槍を七色に染め上げる。

 静寂の戻った白亜の教会。一人孤独な祈祷者は、両手を組み再び祈りを捧げる。祈祷者を照らすのはステンドグラスの極彩色の光。その首には銀のロザリオ。目の前には輝く銀槍。
 そして、背後には仮面の男。

 祈祷者は銀槍を手に取って立ち上がった。
作品名:Bataille de la saison 作家名:紫苑