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ぶち猫錬金術師

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 トマスの一喝は、的を射た意見だった。シホはそれ以上責める気になれずにいたが、それでも小石を蹴り蹴り、夜道を歩き続ける。
「なによ、あいつ、エラそうにさぁ。ねえアルベルト。このままになっちゃうかもしれないんだよ。これでよかったの」
「トマスは気難しい男だからにゃあ。それでもお前サンのことは、少し気に入ってたみたいだ」
「うそ。あ、あれで。修道士というもの自体初めて接したけど、私、理解できなかった」
 アルベルトはシホのとぼけた意見に、心の底から大笑いするのだった。
「そうだ、アルベルト。あのね、あだ名を考えてみたんだけどさ」
「あだにゃ」
「そう。あ・だ・名。でね、まだら模様でしょ。だから、マーブルはどうかと思って」
 アルベルトは何度も頷き、
「いいんじゃないか、それ、使わせてもらうにゃ」
「やったあ。ホントにいいんだね」
「いい、いい。すまなかった、見ず知らずのシホにまで苦労をかけて。それでにゃ、もしもずっとこの姿のままだったら、僕と一緒にいてくれにゃいか。いやなら、いいんだけど。あ、やっぱり忘れてくれ」
 シホは、尻尾振りながら自分のほうへ向けられた背中をじっと見据えながら、返事は渋っていた様子だった。
「そういえば、訊いてもいい」
「どうぞ」
「あのメタトロンとかいうオッサン、どうしてマーブルのこと狙ってたのかな」
 マーブルは上目遣いでシホのことを見上げると
「たしか、僕の魔術がヤバイとか話していたな。聞き出せたのは、それだけだった。そのあと不思議な光が現れて、シホが飛び出してきたので、それっきり」
「ふうん」
 シホは何事か呟いていたが、大きくため息をついて手ごろな石へと腰を下ろした。
「今度は僕が聞いてもいいかにゃ」
「どうぞ」
「どうやってシホはここに来たのか、その経緯を聞きたいんだけどにゃ」 
 シホは、ここがどういう世界なのか、まだよく把握できていないので、話す内容に自信が持てずにいた。
「えっと、セーラー服がわからないんだよね」
 マーブルは頷いた。
「じゃあ、ライターは」
 マーブルは頭を左右に振った。
「ほかには、お箸とか、も、わからないよね」
 今度は頷いた。
「何から話せばいいんだぁ」
 思い悩みはしたが、長い付き合いになりそうな仲間としてマーブルのことを認めていたシホは、概要だけでも伝えようと躍起になった。
「私の住んでいたのは、日本なの。といっても、2010年だけどね」
「に、にせん」
「ようするに、遠い未来からやってきたってわけ。トマスさんとこで哲学か何かの雑誌読んでわかっちゃった。ここ、14世紀なんだね。私、学校の下校途中だったんだけど、道歩いてたら急にめまいがして、フラフラっとした途端、意識がなくなっちゃったみたい。気がついたらここに来ていた。それにね、学校って正直言って嫌いなんだ。みんなと同じことしなくちゃいけないし、団体行動なんて苦手もいいとこ。勉強もあんまり好きじゃないしね、だって、なんの役に立つのかって話になるじゃない、あんなもの。習うだけ時間もったいないよ」
「勉強が、嫌い、か。未来の子供はみんな、そうなるのかにゃ」
「好きなやつの顔が見たいね、けったいだ」
 シホは道端に転がっている石ころを蹴り上げた。
「ふうん、ここにいるけどね、勉強好き。それにトマスも勉強は好きだな、だから二人して錬金術師やっているんだ」
「物好きだよねえ、あなたたち。ねえ、面白いの」
 眉をひそめてシホが尋ねると、マーブルは、
「楽しいよ、フラスコで小人作ったりもできるし、卑金属(鉄や鉛)を純金に変えることだって可能だし、賢者の石を作ることも、不老不死の肉体を得る薬を発明することだって出来る。理論を超越してしまえば神にだってなれる」
「まあそうか。フラスコで人間作るんだもんね、まるで魔法見たいじゃん」
「魔法だよ。ただし、その研究費用のためには、それなりの信頼関係を築かなくちゃならん。貴族がパトロンになってくれるんだ、そのためには身体を売ることも必要だとか」
「え、まさか、男にも」
 シホは真っ青になるが、マーブルは涼しい顔をして続けた。
「やるよ。必要ならね、ただ、僕の場合はその必要性はなかっただけ。何せ先生のお墨付きだったから」
「まさかトマスさん」
「あいつもやらんって。そういうことをするくらいなら、上を目指すのはやめちまうだろう。くだらない、とかいってな」
「言いそう」
 シホとマーブルはトマスのことを想像し、苦笑していた。 
「そうすると、見えてきた。マーブルの狙われた理由って、神の理論を超越しそうだったから、ってこと、だよね」
「鋭いなシホは」
 マーブルは、満足そうに咽を鳴らして微笑んだ。いや、猫の顔なので、だれが見てもたぶん、としか言えないのだが。 
「漫画で鍛えたアタマはどうよ」
 腰に手を当て、ふんぞり返るシホの様子にマーブルがツッコミを入れる。
「マンガ、というのがどういうのか知らないが、僕の勘では威張れたものじゃなさそうだな。まあ、それはおいといて、神の理論への到達は、意外とけわしいので、そこまで至らない、というのが現実なのだがね」   
「わかった。それじゃあ、私も付き合うよ、マーブルの元に戻るっていう、目的の旅にね。どうせ帰れないもん、付き合うしかないんだけど」
「僕の勘だけどね、シホ。この旅を無事終えることが出来れば、シホにもいい結果がつく気がするんだよにゃ」
 マーブルは腕で顔をこすりつつ、ゆったりした、だがしっかりとした口調でシホを見上げてこう云った。
「ありがとう、マーブル」
 驚いたような表情をして、それから、徐々に微笑んだ。
「ちゃんと猫みたいに顔も洗うんだね」 
「顔が痒いだけにゃんだよッ」       
 
  
 

   第三話  海賊センチメンタル



「テトラグラマトン様。申し訳ございません、邪魔が入りまして、マグナス殺害は失敗に終わりました」
 薄暗い、紫色のカーテンが揺れる小部屋で、メタトロンと名乗った男は、カーテン越しの最高神に向かい、しきりと頭をたれ謝罪を繰り返した。
「フン。まあよい。しかしその邪魔というのは」
「は。奇妙な服の小娘でした」
「よもや、破滅の娘ではあるまいな」
「確認はしておりませぬが」
 メタトロンが言うが早いか、声の主は杖を投げつけ、怒号を散らした。
「愚か者。すぐに確認してまいらぬかッ」
「は、ただちに」

  
 

 一方でマーブルとシホは、イタリアの国境、スイスの山の麓まで歩を進めていた。
「車があったら、ヒッチハイクできるのに。なんでまたこんな不便な時代へ飛ばされたんだか。魔法使えるんなら使ってよ」
「魔法といってもにゃあ、空飛べるわけじゃないんだから」 
 先にあるのは険しい崖っぷち。足がやっと入るか入らないか、といった狭さの崖である。
「こんなの歩いたら、絶対命なくなるって。やめようよ、マーブルゥ」
「ここしか足場がないんだ、気をつけてあるくんにゃ」
 舌を打ち、シホも観念したのか、狭い足場を恐る恐る歩き出すが、崖が崩れてシホは転落しかけた。
「シホッ」
 マーブルは憔悴したが、次の刹那に胸を撫で下ろした。
作品名:ぶち猫錬金術師 作家名:earl gray