デンジャラス×プリンセス
「お二人の輝かしい前途を祝し、私からもぜひ祝辞の言葉を述べさせてください。そしてこちらは、姫様からお二人へのささやかなるお祝いの品になります。どうぞ、お受け取りください」
にこやかな表情でフェイルが手持ちの袋から取り出したのは──。
すべてを愛し、許すかのような。
そんな神々しい煌めきに満たされた──黄金に輝くティアラだった。
エピローグ
「はー。結局、若い二人のラブラブっぷりを、これでもかと見せつけられただけだったわねー」
『ジョーカー』に繋がる情報が少しでもあればと思っていたが、フタを開けてみれば結局、今回も収穫はゼロ。頭の後ろで両手を組み、とことこと街道を歩きながら、サーシャは低くぼやいた。
「何をおっしゃいます。あれほどの胸キュンドラマなど、今時、都市部の劇場ギルドでもそうそうお目にかかれませんよ? それに、どうかご心配なさらずに。姫様にも、いつかきっとステキなお相手が現れますから」
「そうねー。できれば趣味の悪いピエロの仮面をかぶった相手なら、なおいいんだけどー」
事件解決から、三日が経過していた。
無事に『運命のティアラ』を奪還したサーシャたちは、その後に村を訪れた調査団の監査を辛くもクリアすることに成功。その背景には村長さんたちの粋な計らいもあり、事情を知った村長さん他、村人たちによって、今回の事件は村のなかだけのことに留めておこうという意思統一がなされたのだ。
事件自体が発生しなかったのだから、もちろん犯人なんて存在しない。これぞ、まさに無血解決。(もっとも、村人たちに対してのエリナさんの怒涛のごとき「ゴメンナサイ」攻撃と、反対に村人たちによるツンデレへの逆謝罪なんてオモシロイベントもあったけどね)。
くわえて、煮え切らない若い男女のカップルまで成立。アタシは恋のキューピットじゃないっての。
ちなみに、兄ちゃん(ゼノ)は、村に滞在していた旅商人のロザリー(ミニガール)と行動を共にすることに決めたようだ。何でも「世界一のトレージャーハンターになるのら。れっつらごー」とか息巻いているミニガールが心配になったようで、自ら護衛を仕ることを強引に決定したらしい。兄ちゃんも、人がいいからなー。心配性というか、何というか。年齢も年齢だし、もしかしたら亡くなった妹さんと彼女を重ね合わせているのかもしれないとか思うのは、さすがに邪推だろうか。
「おい!」
不意の頭上からの声に反射的に顔を上げた──瞬間。突然、小さな丸い物体がサーシャに向かって飛んできた! 顔面に衝突する前に見事キャッチ。ふー。危なかったぜー……。
いきなり何しやがる! と憤慨しながら飛んできた先に目線をやると──そこには意外や意外。街道沿いにそびえる大樹の太い枝の上に、優雅に腰かけているツンデレの姿があった。
「あ。ツンデレ! 何で、こんなトコに? てか、いきなり何すんのよー」
「偶然この近くで、仕事をしててな。そうしたらお前らの姿を見かけたから、先回りして待ち構えてたんだ。あ、それ、やるよ。最近この辺りで評判のメープルアップルっていう果物なんだ。オレには、それは甘すぎる。お前らのようなやつには、ピッタリかと思ってな」
「ああ、そりゃどうも……って、どういう意味よー」
ぎゃーぎゃーと両手をぶん回して抗議していると、頭上のツンデレから、またしても今度はサイドスローで何かを投げつけてきた。何度も、その手はきくか! と、鼻息混じりに横からキャッチ。今度は一体何を投げてきやがった? と手元に視線を移すと……そこには手のひらサイズのブルーのカード? ん。これは魔導ネットワークのホームコードが記載されたパーソナルカードぞよ……?
「借りを作ったままにするのは、オレの主義じゃないんでな。何か困ったことがあったら、いつでも呼べ。助けになってやる」
通常、パーソナルカードは本当に信頼した相手にしか渡さない。悪用される恐れがあるからだ。
ツンデレとエリナさん。二枚分のカードを指先でつまみ、サーシャは、にまっと唇を捻じ曲げる。
「ああ。そりゃどうもー。きっつい労働作業するときになったら、迷わず呼んでコキ使ってやるから、お楽しみにー」
皮肉混じりに、ちゅっと挑発的に唇を鳴らしてやる。ツンデレは嬉しそうに真っ白な歯を見せると、さんさんと輝く太陽目がけて高々と跳躍。すとんと軽やかに地面に着地し、ぴっと額の前で二本指を振ると、そのまま軽やかに駆け去っていった。
「相変わらずのカッコつけ野郎ね。オレ様ナルシー(ナルシスト)に改名させようかしら」
ぶつぶつ言いながら、メープルアップルなる果実にかじりつく。わ!? あま〜い! おいちーねー。
「とか言いながら、キュンキュンしちゃってるのは、どこのどなたでしょう?」
すかさず茶化してくるエロメガネに、強烈なエルボーの洗礼。
「うっさい。それより仕事よ、仕事よっ! 次の依頼はドコ?」
「ぐふっ……。は、はい……。こ……今回の……依頼は……ごほっ……」
今のアタシに恋愛なんて不要。求めているのはお母様の仇を討つことのみ。復讐が生きがいなんてあまりにも悲しすぎるけど、実際これがアタシの一番のモチベーションなのだ。
だからといって、何もアタシはすべてを諦めているわけじゃないぞ。美味しいものを食べたら幸せな気分になるし、嬉しいことがあったら全身で喜ぶし、理不尽なことがあったら思いきり怒る。
感情の縛りは一切なし。たった一度きりの人生だもん。思う存分楽しまないと、もったいないもんね。
ただ、これだけはどうしても譲れない。アタシがアタシ自身に誓った約束なのだ。だから何が何でもやり遂げる。そうじゃないと前に進めないのだ。
だから、アタシはやる。誰が何と言おうとも。
これがアタシの生きる道!
「んー! お天気もいいし! さあ、今日もテンション高めで行くわよーっ!」
そしていつの日か、本物の自由と幸せを手に入れてみせるんだから!
了
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro