面白いこと
みゆはさっさと店の外に向かって飛ぶように行ってしまった。圧倒的な静寂が急に店内に戻ってきた。今野は異性が苦手だった。それで店の反対側にも出入り口があった筈だと思い、その方へ歩いて行った。逃げることにしたのだ。彼は気が強い女は嫌いだった。操縦させて欲しいとなぜ云ってしまったのかと、自らに対する反感を覚えている。
反対側の出入り口へ行くと驚いてしまった。目の前の車は眩いレモンイエローのスポーツカーで、今野が買ったばかりのRCカ―の元になった車なのだった。そのイタリア製のスポーツカーは公道を走れる仕様になっているらしいのだが、それにしても見た感じは瓜ふたつである。その車のすぐ傍に純白の眩い衣装の少女が立っていた。
「早く乗って!パパ。今野君よ」
その車のドアは上に跳ね上がる方式で、ガルウイングと呼ばれるものだった。今野は駆け寄って来た少女に引きずられるようにして極めて狭い後部座席に押し込まれた。
電動式のドアが空から下りて来て閉じられると、
「今野君か。君も車のおもちゃが好きなんだな」
「……」
エンジンが吠え始めるとすぐ、車は猛ダッシュをした。今野の背中はシートに押しつけられた。