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forest

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「お婆ちゃん、この本読んで?」

綺麗な色の二つの目で孫が私の顔をみる。
その孫の手元の懐かしい背表紙をみるとあの頃の思い出が蘇ってくるような気持ちになった。
「いいわよ。でもね、それは物語とかじゃなくて私の日記なの。そんな所にあったのねー、もう無くしたと思ってたわ。」
孫がみつけてきた場所は娘が小さな頃に使っていた、宝物入れの中だった。

「お母さん、あの日記探してたの?」
隣で編み物をしていた娘が顔をあげる。
「探していたわけではないんだけど、どこに消えたのかしらって思ってただけよ。」
「私、小さい頃はあの本には宝の隠し場所が書いてあるとおもってたのよね。文字なんてまだ読めないのに。」
くすくすと孫と同じ色の瞳を細めながら娘は笑った。
「宝の隠し場所なんて、そんなにたいそうなものは書いてないわよ。私の思い出が書かれているだけ。」

「ねぇーお婆ちゃん、早く読んで。」
孫がせかすように私の袖をひっぱる。
「お母さん、わたしも聞きたいわ。」
娘まで、瞳を輝かせながら私をみる。編み物をする手はとっくに止まっていて、話をきくために縫っていたセーターを横に置いた。

「恥ずかしいけど、仕方ないわねぇ。」
わたしは手に持った、日記を昔の頃を思い出しながら開いた。

日記はわたしが19歳の時、大きな森の近くの小さな町にあるわたしのお婆ちゃんの家に行くところから始まっていた。

冬が終わり、春の風がふきはじめる頃だった。

作品名:forest 作家名:あき