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シロクロモノクローム

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第五話:無駄な事



どうやらぼくは、本当にへんてこな世界に迷い込んだらしい。
白一色の世界、目の前にはクオリアと名乗る変な人形。
そして、ここではイメージが具現化するらしい。
もう一発自分を殴ってみる。やっぱり痛い。
夢としか思えないが、夢ではないみたいだ。
それじゃあ、ここはいったい何なんだろう。
「考えるだけ無駄だぜ」
そんなぼくの考えを見透かしたかのように、椅子に座ったクオリアさんは言った。
「俺も最初の頃、この世界を何とか理解しようとした。
 けれどよ、わかんねえもんはわかんねえ、考えても無駄だ」
 確かに、ヒントの全くないこの世界で、
この世界が一体なんであるかなんて考えるのは無駄かもしれない。
「そですね。ここでぼくがなにを悩んでも、
 世界は変わらないでしょうし」
「ま、そういうこった。しかし順応性高いなお前。
こんなへんてこな世界に来たのにすぐ馴染むなんてよ」
クオリアさんは少し感心したようにぼくを見た。
馴染んでいる、か。どうなんだろう。
確かに、ぼくは馴染んでいるのかもしれない。
最初はさすがに意味がわからなすぎて混乱したけれど。もう大丈夫。
だって、ぼくはこの世界になんにも望んでいないのだから。
だから、ぼくはこの世界に裏切られない。
だから、ぼくはこの世界を受け入れられる。
「ま、パニクられても困るから、丁度いいっちゃいいんだけれどな。
 さて、それじゃあ考えるか」
「なにをですか?」
僕が聞き返すと、クオリアさんはニヤリと笑って言った。
「お前の名前さ。ないと色々困るんだよ」

作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景