シロクロモノクローム
第四十一話:豹変
やるしかねえか。クオリアさんはタギングで、カジ君をぶっ飛ばしたハンマーを出す。
その顔に、うっすらと流れる汗。緊迫した空気が流れる。
「ク、クオリアさんっ!」
「どうしたナナっ!」
「こいつスクリプトがないですよっ!」
クオリアさんは目を見開いて振り返った。
「まさか、そんなはず……」
クオリアさんの言葉は、巨人の歩を進める地響きでかき消された。
まるで地震のように地面が揺れる。
「きゃあ!」
ぼくはバランスを崩して、ヘタリとその場に尻もちをついてしまった。
巨大な岩の巨人は、その巨大な腕を振り上げ、僕らに向かって振りかざした。
思わずぼくは目を閉じる。巨人の腕が空を裂く音がして、まるで衝突事故があったかのような衝撃音。そして沈黙。痛みも何も感じない。あ、死んじゃったのかな、ぼく。
ゆっくり目を開けると、宙に浮いた一枚の巨大な盾が、巨人の腕を受け止めていた。
「ク、クオリアさん?」
「い、いや、俺じゃない」
「じゃあ誰が……」
そんな沈黙を、あざ笑うかのような笑い声が後ろから聞こえ、ぼくら二人は振り向いた。
「この程度だったなら、私が出てくる必要はありませんでしたね」
いままでの体育会系なしゃべり方から一転、上品で気高い声で、カジ君は不敵に笑っていた。
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景