シロクロモノクローム
第二十八話:デバック
近づいてみると、翼竜の大きさにぼくは少したじろいだ。想像していたサイズより一回りほど大きい。
「まあ、俺ら二人が乗る位ならちょうどいいサイズだな」
クオリアさんは、倒れている翼竜の頭をポンポンと叩きながらそう言った。
「生きて、ますよね?」
「気絶しているだけだ。まあ、あと数分は起き上がれないだろう。ナナ、ここからはお前にしかできない作業になる。デバイス見てくれ」
ぼくは頷いてデバイスを見る。さっきの犬バグの時のように、文字化けした文字列が並んでいた。
「バグっていうのはな、正常なプログラムが、何らかの原因によっておかしくなったものを言うんだ。今デバイスに出ている文字列、文字化けしているだろ? この文字化けを解消すれば、バグは普通のプログラムに戻る。これを<デバック>というんだ」
けれどな、とクオリアさんは一息ついて続ける。
「デバックは難易度が高いんだ。直す量が多いから普通のタイプスピードだと間に合わない。けれど、お前の常識破りのタイプスピードなら不可能じゃない」
「どうやれば、良いんですか?」
「文字列に触ってみてくれ」
ぼくは表示されている、文字化けした文字列を指でつついた。
すると、文字化けした部分の上に、ローマ字の文字が表示された。
「正しい文字列が上に表示されただろ? それを時間内に正確に打てばいい。そうすればこのバグは正常なプログラムに戻る」
ぼくは頷き、キーボードに手を添える。
制限時間が表示される。30秒。大丈夫。出来る。
目を閉じて、深呼吸を一つ。二つ。三つ。
ぼくは、キーボードに指を走らせた。
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景