シロクロモノクローム
第十八話:生きるという事
<修正>が完了した後に残ったのは、まるでボロキレの様になったバグの残骸。
そして、バグから抽出した液体で一杯になった注射器型のデバイス。
身体が、言う事を聞かない。足に力が入らなくて、ぼくはペタンとその場に座り込んでしまった。
初めて、自らの意思で、何かを殺した。
自分の手で、自分のために、自分勝手に、一つの命を奪った。
目の前のバグの残骸を、ぼくは見続ける。
涙が、どうしても止まらなかった。
「全く、これだから現代っ子は困る」
背後からクオリアさんの声が聞こえる。それをいつものような憎まれ口で返す余裕は、僕の心の中になかった。ただ、バグの残骸を眺め続けた。
クオリアさんはぼくをさとすように話し始めた。
「ナナ、お前は忘れているかもしれないが、生きるっていうのはこういう事なんだよ。仲良しこよしで世界は廻らない。生きるために、何かを殺していく。そして、生き続ける限り、それは続くんだ。お前の食べてきたメシの数だけ、命は消えている。お前が生きた分だけ、死んでいくものがある。この世界だってそうだ。生きていくためには、ほかの生きているものを殺さないといけない。お前は死にたくないんだろ? 生きたいんだろ? だったら強くなれ。生きるために何かを殺す、強さを持て」
ぼくは頷いた。けれど、涙は止まらなかった。
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景