小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

203号室 尾路山誠二『アインシュタイン・ハイツ』

INDEX|39ページ/39ページ|

前のページ
 

 茶色の髪は肩口でばっさりと切り落とされた印象があり、若い顔立ち。服装は至って普通で、Tシャツにジーンズ。ここまでは実に普通。髪型やら服装から、お洒落などにはあまり関心はないかと感じる。それでもやはり世界には、彼女のような人間はたくさんいるだろう。
 が、しかし、だ。
 彼女は……透けていた。
 いや、服が透けているとか、そういうセクハラ的なことではなくて――体全体が透けている。
 そして、"彼女は壁から通り抜けるように"現れたのだ。
「………………」
「………………」
 呆然とする俺。
 そして呆然とする俺を見つめる彼女も、どこか唖然とした様子で固まっていた。が、見る見るうちに女性の顔が変化している。女性は俺を見つめながら、口元を押さえ、その次は両目を塞いで、しかしOの字に開けられた口を隠すために、片手は口元、もう片方の手で両目を隠すというパフォーマンスを行った。
「きゃあああああああッッ!!」
 とでも叫んでいそうな雰囲気だったが、特に言葉は発せられず、「何でもないんです!」「これは間違いなんです!」とか、「やめて、来ないで!」「そんなもの見せないで!」とでも言いたげ、両手でひらひらさせたり、目の前の空間を両腕でかき回していた。そして彼女は、くるりと背を向けると、煙のように消えていった。
「………………」
 うん、何を考えていいのやら。
 とりあえず、妙齢の女性に全裸を見られてしまったことは確かだった。手は手すりに置かれ、隠さなければならない部分は丸出しだった。そして壁の向こうから現れた女性は透けていて、煙のように消えていった。
 俺はそっと股間部分を隠し、エリマキトカゲ走法を開始。
 二階へ上がり、途中誰かとすれ違ったが、気にせず疾走。
 自分の部屋へと辿り着いて、部屋へと入る。部屋の中央に置かれた布団の上にダイブし――
 気絶したのだった。

 
 翌日、起きてみるとやはり俺は裸だった。目が覚めた瞬間は、昨日の出来事が夢なんじゃないかと思ったのだが……現実は非情である。
 とにかくだ。幽霊が怖いから仕事を休むなどとは言えない。スーツを着て、びくびくしながら廊下に出る。拍子抜けするぐらいに何もなく(というか、昼間から幽霊が出るはずもないのか?)、俺はこそこそしながら玄関へ向かった。
「おっ?」
 その玄関には見覚えのある何かが乱雑に置いてあった。俺のTシャツと短パンとトランクスだ。
 そして、それらの前にちょこんと座るロンブーが。
「……まさか、お前が何か関係しているんじゃないだろうな」
 俺の呟きの意味が分かったのか分からなかったのか、ロンブーは優雅に背を向けて庭へと歩いていった。
「………………」
 ………………。
 俺はその後を追って、その毛並みに顔を埋めてモフモフしてやるのだった。

「フギャーーーー!!」
「うぎゃああああッ!!」