Mission!! 第8話~第12話
第8話「国王を捕獲せよ!」
第8話「国王を捕獲せよ!」
夕暮れのフォイオン ベンとホウィがいるビルの屋上から見える水平線に、だんだんと夕日が傾いていった。そんな頃、中央映画館の前に2台の黒塗り高級車がゆっくりと進入してきた。
そこへ案の定、自分たちの行動がすべて、別のビルの屋上から見られていることも知らずに、射撃手ジョルジュは射撃を開始した。マシューの命令を待たずにだ・・・。
ジュルジュ・トウェインは外人部隊在籍時でも、射撃の成績だけは優秀だったが、いささか軽率な性格の持ち主であったため、しばしば仲間と衝突することがあった。この日も、過去と同様にミスを犯した。比較的沈着冷静なマシューの命令を待たずに、射撃をしてしまったことだ。軽快な連射音とともに、2台の車のタイヤが次々と破裂し、ボンネットには無数の弾が飛び跳ねていく。夕方の街に鳴り響く銃声・・・。
そんなジュルジュの行動にため息をつきながらも、マシューは現場を冷静に分析していた。
『そういえば、この国はどこもかしこも禁煙だと、あれほど言っておいたのに・・・、こいつはバーでタバコふかしやがったな・・・』
ジョルジュとは長年の付き合いとはいえ、この軽率な性格だけは何とかしてもらいたいとマシュー思い始めていた。
「様子がおかしい・・いつもいるはずの警察車両が見当たらない・・・」
そんなマシューの独り言を無視し、車両にて待機中の仲間にGoサインの伝達をするため、ジョルジュは射撃をやめた。そして彼は意気揚々と携帯に向かって叫んだ。
「今のうちだ!国王をかっさらえ!」
停車していた黒いバンにそう伝えると、車のスライドドアが開き、銃を片手にした男たちが、飛び出してきた。
「待て!なにか違う!早くここを去ったほうがいい!」マシューがジュルジュにそう叫んだ。
マシューは夕暮れの映画館に、あまりにも他の観客の姿が見えないこと、誘導しているはずの警察車両もいないことを不思議に思い、ここから撤退することを決断した。
『多分、チラホラと見えた人間の姿は、王室警護の囮だ。』
マシューは自分の銃の脚をたたみ担ぎ上げ、ビルの屋上にある出入り口に向かって走りだした。
そのときベンの放った一発のブレットがマシューの右足を貫く。
「うお!!!」右足から血を出し、その場に倒れるマシューにジュルジュが叫ぶ。
「マシュー!」
「この方角からだ!気をつけろ!スナイパーが狙っている!くそ・・フランツのやつ・・裏切りやがったな・・」マシューはベンのいる方向に位置するビルを指差して叫んだ。そして、ポケットから携帯を出し電話をかけた。
「俺だ!マシューだ!すぐ女と子供を殺せ!そして逃げるんだ!・・・・・・」
しかしそう叫んだ相手の電話の向こうから聞こえてきたのは、あわただしい銃撃音だった・・。
「こっちも・・・やられました・・・」
その声の後には、耳障りな携帯が床に落ちる音が聞こえた。足を撃たれた痛みと、今の状況を把握するのにしばし時間がかかった。
「どうした?!」彼はジュルジュの声にはっとして我に返った・・・。
「こんな短時間に俺たちのアジトも見つけやがったのか・・」
そこへどこからともなく軍用ヘリコプターの飛来する音が聞こえてきた。二人は大空を見上げたとき、大きな影を落として飛ぶ軍用ヘリの姿が見えた。
「げ!あれはAH-64アパッチ対戦車、対地攻撃用ヘリ・・・やばいぜ!こんなオンボロビル、ハイドラ70 FFARロケット弾くらったらものの見事に崩壊しちまう!!!」
「どうせ取り壊す寸前のビルだ!どうなったって知ったこっちゃないが、ここはひとまず逃げるぞ!!」
慌ててドアに向かって走り去る2人だった。
しかし、アパッチのコクピットでは、完全にこの二人の行動を把握していた。無線から聞こえるベンの命令が次の攻撃を繰り出した。
「やつを殺すな。できれば捕獲せよ!!」
「Roger that!!」(了解)
AH-64 アパッチヘリが大きく旋回して、ビルの中腹あたりに機関銃を連射した。奴らを殺すなら簡単だ・・・。ビルごとロケット弾で破壊粉砕してしまえばいいが、捕獲となると彼らの逃げ道を断つことが優先だ。コクピット下に取り付けられたM230 30mm自動式機関砲が放つ振動がビル内にとどろいた。
一方、中央映画館前で白い煙を吐いている高級車は、完全にその動きを沈黙させていた。ゆっくりと5人の男が銃を手に近づいていく。普段国王が乗る右後部座席だけ、射撃の痕跡が見つからなかった。そこだけジュルジュが外して射撃をしたとしたら、腕前はいい・・・。
彼らが現場に近づくなり、男たちはその緊張感から息が荒くなっていった・・・・。
「車の中の国王を連れだせ!A班、車をまわせ!」
「102陸軍のヘリコプターまで出てきてますぜ、情報がリークしたのでは?」
「わからん。しかし・・アンドレを捕まえた者が、最終的に勝ちなのさ。行くぞ!」
テンションの高い男たちはそういって車に向かい、一気にドアを開けた。
「これは!!」
「ダミーだ!」中には金髪のかつらをかぶったマネキンが置いてあった。緊張感と無駄なハイテンションだった彼らを襲った失敗という文字。いきなり憤慨した一人の男が、そのマネキンを掴み、道路に投げ捨てた!!
「ちくしょう!」その声に指揮官が振り向く。
「ばか者!さわるな!!」そういった瞬間、身をかがませた全員だったが・・・。しかしなんの反応もなかった。通常こういった状況では、マネキンや仲間の遺体などに、手榴弾を仕掛け、不用意に触ることによってピンがはずれ、爆発が起こし殺傷させるのは陸軍では当然のことだった。
「なんだよ・・・驚かすなよ。ただのマネキンじゃねえか」そう言った瞬間、無情にもマネキンが爆発した。大声を上げて倒れる軍人たちは、のけぞり地面に横になった後もその身をもだえ、苦しんでいた。
ビルの屋上からその様子を見ていたベンの右手には、遠隔操作で爆発するクレイモアのリモコンスイッチを手にしていた。
「よっしゃ!!後はビルの中にいるあの二人だけだな!」
「行こう」二人は荷物をもって立ち上がると、その場から去っていった。
そんな現場から離れた場所に位置するイタリアレストランでは、玄関口に静かに停車した車から、まるで映画スターのようにアンドレが現れた。サラの座った座席のドアを店のものが開けると、アンドレの様子とは違い緊張した様子のサラが姿を現す。
そこへ慌ててレストランのオーナーと料理長が駆けつけた。
「いらっしゃいませ。アンドレ国王。」
「お久しぶりです、ロレンティオさん、お元気でしたか?」
「これは名前を覚えていてくださるとは、光栄です。」レストランのオーナーは両手を胸の前で合わせて喜んだ。そこへ主催者であるイタリア領事館長ともう一人の付随者があわただしく駆けつけた。
「今日はお招きいただき、ありがとうございます。ブラマンテ領事館長、時間に遅れてしまい大変申し訳ありません。」少し恰幅のいいその男性は、久しぶりに走ったのか、顔を赤面させながらアンドレ王との挨拶を済ませたが、ふとサラのことが気になるのか、視線をしきりに彼女のほうに向けていた。
「いいえ、とんでもない。あ・・こちらの女性は・・」
作品名:Mission!! 第8話~第12話 作家名:Rachel