マチジカン
Case 1+2.
待ち合わせ時刻をすぎた六時三十五分。
駅前のショッピングセンターで、今日は棚卸しのため早く閉めてしまうらしい店が、がらがらと音をたててシャッターを閉める。逆に、居酒屋なんかは、これからが客の入り本番というところだ。
だんだんと太陽が沈んでいって、青い空から夕焼けの朱へ、そして淡い紫を通って夜の紺へ。空がグラデーションを作って表情を変えはじめる。夏至もとっくに過ぎてしまったから、だんだんと夜が訪れるのが早くなってきた。
街を歩く人も、だんだんと夕飯の買い出しのおばさんや学生が多かったのに比べ、会社帰りの人だとかが増えてくる。
ちかちか、と何度か点滅をして、街灯に灯りが灯る。薄暗くなった空に、イルミネーションや店のライトがぼんやりと浮き上がりはじめる。
街が、昼の時間から夜の時間へと顔を変えていく。
このがらりと顔を変える瞬間を眺めているのが好きだ。
こうやって、周囲を観察しているのは、そこに住む人だけでなく、その街の時間を観察しているのと同じことだから。
気忙しく動いていく街の時間を。
数歩、前にでて振り返り、行き交う人にぶつからないように注意して駅にかかっている時計を見上げる。
現在六時四十分。
……そろそろかな。
「ごめん、待たせたね」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。振り返ると、やっぱり見覚えのある顔が、小走りに近寄ってくる。
「だいぶ待った?」
「いや、大丈夫」
上がってない息は、ここが見えてからのほんのわずかだけを走ったということ。
質問から少しずらした答えは、それでも真実。
「じゃ、行こっか。早くしないとレイトショーの映画にも間に合わなくなるよ」
「あ、そんな言い方する? 私そんなに遅れてないよー」
そんなことをお互いに言いながら、完全に暗くなった空が見えなくなる駅構内に入っていく。そうして、私たちは徐々に街を行く人々の群れに溶け込んでいく。
待ち時間の間に動いていった街の時間は、もう完全に夜になっていた。