Mission!! 第1話~第7話
第5話「The First Contact」
第5話「The First Contact」
次のゲートにたどり着いたサラとホウィは、そこでフォイオンの青い海と空を待ちきれずにいる観光客たちの中で、静かに搭乗時間になるのを待っていた。ただひとり、あのしつこいおばさんが、なんだかんだとしゃべりかけてきているのを除いては・・・。
さすがのホウィもだんだん疲れ始めていた。いくら彼でもこの手の女性は扱いにくいようだった。サラにしてみれば、ホウィがいてくれて助かったと思っているのだが・・。
搭乗時間が来た。観光客に混じってゲート前に並び始めると、ふとホウィが突然チケット片手にサラにたずねた。
「向こうでは空港に誰か迎えに来てくれてるんだろ?」
「ああ、忘れてた・・・ベンに電話しておかなくっちゃ・・・」
そういって慌てて携帯を取り出すと、使い慣れない手つきで電話番号を検索しだした。
「別にどこかで2人で一泊してから行ってもいいんだけど・・・」
そんなホウィの声を無視して、やっと見つけたベンの電話番号を表示すると発信ボタンを押した。
「聞いてる?」無視したサラに顔を近づけたホウィの背中に、いきなり誰かがバシッとたたく。おどろいて後ろを振り返ると、やっぱりさっきのおばさんだ。
「ちょっと、あなた。さっきからサラちゃんにベタベタして!これだからフランス男は困るのよ!今、彼女は電話してるんだから、少しは気を使いなさいよ!」
「いや、そんなわけじゃなくって・・・」
「まあ、私のダンナもフランス系アメリカ人の情熱的な男性だけど、あなたはちょっと女ったらしね!」
「それでは今からAir Foyon 004便の搭乗を開始します。まずはファーストクラスのお客様から・・・」
「ちょっと、そんなに怒らなくても・・・ほら!!搭乗始まりますよ〜〜・・・」
「私の知っている独身男性を紹介する約束しているの。あんまり彼女に近づかないでくれる?それに昔の同僚なんでしょ? む・か・しの!そんな長い間一緒にいて同僚だと思われてるんだから、もうあきらめなさい!」
「サラ・ブルックナーです。フォイオン時間の1800(Eighteen O'clock)。空港に到着予定・・・突然電話して・・・」おばさんはサラにも突然背中をたたくと、サラはその反動で携帯を切ってしまった。これにはサラも驚いた。相手はベンに違いないが・・
おばさんはホウィに白い目を浴びせると、サラの腕を取ってゲートに向かった。
「さ!こんな男放っておいて行きましょう!向こうに着いたらさっそく紹介するわー!結構、男前でかっこいいわよ!」
「ちょっと・・・・・」サラは強引なおばさんに困った表情を見せた。
飛行機の座席はラッキーなことに、あのおばさんとは相当離れていた。となりにホウィがどっかと椅子に座ると、大きなため息をついた。
「よく喋るおばさん・・・反論ひとつもできやしねえ。」
「すごいでしょ。」サラは笑った。
「・・・・・ベンジャミン教官の頼みだから行くんだろ?」ホウィは少し真面目な顔つきに場ってそう尋ねた。
「まあね・・・。」
「彼の頼みなら、やっぱりな・・・」
「助けてもらった借りもあるし・・・」
「あの時は司令部でハラハラしたぜ。あの大男が頭おかしくなってサラをひっ捕らえやがった。ミリタリーポリスの銃を奪い、手榴弾のピンまで抜きやがった。」
「彼は同期だし、教育期間中ずっと共に頑張ってきた仲間だったから、なんとか救いたかったの。事が大きくなる前におさめたかった。その一瞬のためらいがベンを負傷させてしまった。後に怪我が理由で除隊したと聞いて・・・。彼には感謝してる。」
「俺はあの事件のあと、てっきりベンと結婚するかと思ったよ。」
「まさか・・・普通の生活なんて・・私には・・」
7年前の外人部隊で、彼女の実力を認め始めた仲間たちは、チームワークの大切さを改めて感じ始めていた。誰もが完璧な人間ではないが、それを非難しあっていては、作戦は成功しないこともわかり始めてきた。幼少からアフガニスタンの紛争地域で育った彼女が、知らず知らずに培われた仲間意識から発するものだったことは言うまでもない。
外人部隊には、犯罪に手を染めたものも少なくはなかった。過去を断ち切ってここで修行するつもりなのか、これしか生きる道を見出せないのか、そんな仲間の中にあのマシューとジョルジュもいた。
この二人は真面目な仲間を騙し、時としては彼らにその罪をなすりつけ、ひいてはフランスに大量の大麻を持ち込み、それを売り裁く犯罪行為を行っていた。その罪を着せられた律儀な歴代スペイン軍人の家系を持つ、真面目な大男パブロ・グラナドスが、問題を起こした・・・。精神状態を殺め、突如その無実の罪をはらさんと、必死の抵抗を始めたのだ。
サラはこの生真面目なパブロがどれだけ優しく、勇猛果敢で優秀な軍人であるかを知っていた。こうなってしまったいきさつも、詳しく知りはしないが、なにか他に理由があるのだと信じていた。だから、正当防衛を理由に彼を撃とうとする教官ベンを止めた・・・しかし・・・。
サラを捕らえたパブロの構える小銃が、威嚇射撃であったにもかかわらず、反動でひずみ、ベンの右足を打ち抜いてしまったのだ。パブロがその自分の行為に驚いた瞬間、サラの右手が彼の右わきの下から入り込み、左手で彼の右手手首を掴むと、彼より背の低い彼女の体が、まるでそこから消えたように沈み込んだ。
とたん、パブロの体は宙に舞い、一気に地面へと倒れこんだ・・・。
『彼は外人部隊を去って、今、どこで何をしているのだろうか・・・・』そんな思いがサラの心を通り過ぎていった。
一方的な電話だったが、アンドレはその内容をはっきり把握していた。初めて聞く彼女の声だった。
宮殿の玄関から正装をしたアンドレ王がでてくると、警察車両や運転手、そこにいたメイド達が一斉にあるべき位置へ身を寄せた。第1秘書のベンが彼の乗る車のドアを開ける。しかし彼はその車に乗ろうとはしなかった。そこにいるベンの顔を見てこういった。
「もうしわけない・・・今日のイタリア領事館長との夕食会はキャンセルにならないだろうか。謝罪を正式に・・・。」
「どうしたのですか?王」
「サラから電話がありました。本日の18時に空港に到着すると・・・是非迎えに行きたいのです。」
「それはよかった。警察に連絡を。ルートの変更を・・」そういった瞬間、ベンの隣にいた第2秘書フランツが叫んだ。
「こ・・・困ります!!そんな急にキャンセルだなんて・・・」普段彼がこんな態度に出ることはない・・。ベンは彼を驚いた様子で見つめた・・・。
「・・・場所はレオナードイタリーレストランだったな。確かにドタキャンでは向こうに申し訳ない。1時間遅れることを連絡してくれ。今からなら大丈夫だろう。ドライバー、空港から直接レオナードイタリーレストラン行きだ。」
「了解しました。」
「あ・・・場所が・・」そこにも、口を挟むフランツだった。
「場所がどうした?フランツ」おどおどした態度のフランツに、隣にいたアンドレが静かに口を開く。
「今朝、会食の場所が変更になりました。ホテルラッジーナだそうです。」
作品名:Mission!! 第1話~第7話 作家名:Rachel