Mission!! 第1話~第7話
第6話「フィアンセ」
第6話「フィアンセ」
フォイオン国際空港に舞い降りた旅客機が、そこに乗せた観光客を一気に解放すると、あちらこちらで久しぶりの再会を果たした家族の姿が見えた。ホウィはそのほほえましい様子を見てにこやかな笑顔を見せたが、先を歩いていくサラには全く無縁のものとでも言うように、彼女の眼中にその光景が映ることはなかった。
イギリスで生まれてすぐ、親に捨てられ孤児院で育った彼女には、そこで喜びの再会をしている家族の心中など知る由もなかった。そんなことより気になることがある。なぜ、こんなにも警官の姿が多いのか??
壁にもたれているあの男・・・背広の一番ボタンが外れている・・。拳銃を空港内で携行できるのは彼らしかいない・・・。やはり、あのリポートのように、この国の要人を人質にとって、石っころ(3X)を奪い取ろうとする悪党がこの近くにいるかもしれない・・・。
サラとホウィ、そしておばさんが辺りを見回していると、不意に厳しい表情をした警察官の何人かがサラの背後に回った。
『警察官??いや・・それは断定できない・・・。』
その場から慌てて歩き出したサラに、ホウィも怪訝そうにその後ろを歩いていった。すると、別の男たちが動き出す・・・。
「・・・こいつら・・・」その緊張したサラの表情から、なにか異変を感じ取ったホウィも、あたりを警戒しだした。
サラはわざと荷物を床に落として、それを拾い集めだした。ホウィも長年のカンからか、その場のサラを無視して、より前方へそのまま足を運んでいった。
『一緒に捕まることはない・・・二手に分かれたほうがいい・・・』
やっと荷物を拾い集めたサラは、ゆっくり立ち上がるとホウィの向かった方向とは別方向へと歩き出した。そこへすれ違った一人の男がサラの隣にくると、彼女の腕を取って何かを言いかけた途端、サラはその男の腕をねじ伏せた。
「いてて!!」床に伏せたその男を突き放すと、その場から走り出したサラだった。
それと同時に空港中にいた怪しい男たちが、あわてた様子でサラを追い出した。
突如、空港ロビーに大声がとどろく・・。あのおばさんの声だ。
「サラ!こっちよ!!ほらほらダンナが送ってくれるって!!」
その大声にサラは困惑した。
「あら、サラちゃん美人だからあっちこっちで男たちに狙われちゃってるわ。」
おばさんはサラの事態を全く呑み込めていないようだった。
おもわず彼女の足が止まった・・・・。ベンがひとり彼女に行く先を解っているかのように立ちふさいでいたのだ。
「よく来てくれた。」あとから追いかけてきた数人の男たちがベンの傍らに並んだ。
「これはどういうこと?ベン」
彼女の周辺にいた一般人たちを、そこから丁重に距離を置くように誘導していく男たち。私服警官があっちこっちに取り巻いていた。なぜ、こんなことに?
「サラちゃん!!だいじょうぶ?変な男たちに言い寄られて困ってるでしょ??」
おばさんがサラに近づこうとしたが、SPたちに阻まれてしまった。
「サラ!!」若い男の声が聞こえた。サラはそちらの方向を見ると、長身に黒のスーツを着たアンドレ国王が、手に花をもって近づいてきた。まるで映画に出てくるようなイケメン俳優だ・・・。厳重な警備の中、その金髪の男はサラの前まで来るとひざまずき、サラの右手にそうっと触れ、まるで映画のような美しいキスをしてみせた。
「あなたは・・・」サラはその状況に当惑した。いったい何が起きているというのか?
ホウィも慌てて駆けつけてきた。その時SPに止められたおばさんの大声が空港中にとどろいた。
「きゃーーー!!!!思い出したわ!!アンドレ王!!フォイオンの国王よ!!まさか空港でばったり会うなんて!!かっこいいーわーーー!!」
そう叫んだ瞬間、私服警察官になだめられ、ここから去るように言われている様子が見えた。
サラはただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
「アンドレ・・王?」ネットで見たひげづら国王と違うじゃないか・・・。
「クビを長くして、あなたが来るのを待っていました。私はアンドレ・ウィルヘルム・スタインベック5世。この国の王です。ようこそ、私の国へ・・・My fiancee」
「My・・・」彼はそういうと、サラの体をそうっと抱きしめた。
背の高いその男の胸元にいるサラは、唖然としたまま、右手に持った荷物をまたフロアーに落としてしまった。
サラは空港の更衣室に案内され、そこで着替えるように指示された。いやいやながらカーテンを閉め、中で用意された箱をあけると、そこにはサラの好みの色であるベルベット深緑のドレスが入っていた。
「どういうこと?ベン」更衣室の壁にもたれていたベンに声をかけた。
「君はこのMissionに参加した。ということは私の指揮下に入ったということだ。部下をどのように使うかは指揮官である私次第ということだ。わかるな?」
「あの時、ボディガードという話だった。こんなドレスを着て、しかも婚約者役として国王を守るなんて話聞いてないぞ。」
「普通の生活がしたいって言ってたじゃないか。一石二鳥だと思ったんだが違うか?」
「私はただ、人間として普通の生活をしたかっただけ。」
ベンの隣に突っ立っていたホウィが会話に口をはさんだ。
「まあ、確かに傭兵生活から、女王生活なんてちょっといきなりなんじゃない?ベン?」サラを擁護しようとしたホウィをじっと見て咳ばらいをしたベンだった。
「・・・・お前が来るなんて話、聞いてなかったぞ。ホウィ」
「いやその・・・」
ホウィは一時期、カステルノダリにある外人部隊で事務方として雇われていた。そうなったのには理由がある。探偵業を開業していたが、数々の女性問題を起こし、あわてて外人部隊に雇用してもらった・・いや逃げてきたといったほうが正解に近い。サラは覚えていないかもしれないが、彼女の入隊時期とほとんど同じころにホウィは外人部隊に雇用されており、そうなったのにも実はサラの活躍があった。
「まあいい。王の宮殿内で情報収集も必要だしな。」
「この俺も王の宮殿に住めるの?マジ?やったねー!サラー頑張ってちょうだいねー!」
「まったく、他人事だと思って・・・」カーテンの向こうでふてくされるサラだった。ベンの説明が始まった。
「実は、宮内庁の幹部が何者かに脅迫され、今夜の夕食会の行き先を変更させやがった。多分、そのルート上でアンドレ王を人質に取って、例の鉱石と引き換えにする、そんな計画だったのだろう。」その続きをホウィが話し出した。
「この国にとってみれば、フォイオン王家は国の象徴だ。しかも他国からも絶大な人気を誇る王家は、欠かすことのできない存在だ。まあ、あのアンドレ国王は世界中の雑誌の表紙を飾るほど男前だしねえ・・・。あれ?サラ、知らなかったの?」ホウィがそういうとサラはため息をついた。
「そんな女性雑誌、私が読むとでも?」
「まさか、噂されていた婚約者がサラだったとは、さすがのこのホウィ様も気が付かなかったけどなあ。」
「ホウィ、お前がくれたあのフォイオン国公式ホームページ、偽物だろ?」
作品名:Mission!! 第1話~第7話 作家名:Rachel