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ひづきまよ
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novelistID. 47429
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サキコとおっさんの話11

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■本日快晴。そして暑い。

 じわじわとする空気の中、やはりいつものコンビニのタバコの自販機前。
「夏休み終わっちゃうじゃん!!」
 制服ではなく、派手な私服姿のサキコは溶けそうなアイスを食していた。汗ばむ会社行き用のシャツの前をぱたぱたさせながら、おっさんはやっぱりタバコの煙を燻らしていた。
 いいよな、まだ夏休みがあって・・・と彼は心の中で舌打ちする。
「休みあるだけいいだろ!俺なんか盆の休み三日しか無かったんだぞ!社会人舐めんな!」
「バイトしたもん!」
「バイトは小遣い稼ぎで好きでやってんだろうが!連休終わったら仕事が溜まる苦しさ知らねえだろ!お陰で肩こりが半端ねえわ!」
 健康を気にするんならそのタバコやめろとサキコは思ったが、言ったとしても絶対に効き目なんか無いだろうと思う。
「んじゃその連休何してたのさ」
「あ?・・・何だっけな・・・」
 言われて彼は過去を思い出そうとした。

 実家に一旦帰って親の足代わり、墓参り。二日目に帰宅、惰眠を貪る。三日目、やっぱりすることが無く結局また惰眠を貪る。

 思い出していくうちに、彼は「なんもしてねえわ・・・」と答えた。
「え?何もしてないの?」
「うるせえな!独身の男なんてそんなもんだろ!」
「他にあるだろ!友達とかと海水浴とかさぁ!!」
「そりゃあもっと休みありゃ行ったかもしんねーけどさ!寝貯めしてたんだよ!」
 自慢して言う事かよ・・・とサキコは残りのアイスを口にする。
「おっさんはやっぱおっさんだよな」
 疲れ果てた会社員って感じだよねと続ける。おっさんはちょっとカチンとした。
「馬鹿言え、俺らがこうして働いてるから世界経済が動いてんだよ!」
 言いながらよく分からない方向に話が向いているなと思っていた。しかしここまで壮大に言わなければ、このちゃらんぽらんな女には分からないだろう。しかし彼女は食べていたアイスの棒を捨てながら、「はー、アイスくっそうめぇ」とゴミ箱に捨てている。
 彼女の背中を見ながら「聞けよ人の話!!」と怒鳴った。
「お前、親に感謝しろよ!親が頑張ってるからそうやって好きな生活出来てんだぞ!」
「んああ、いつも感謝してるよ?三種類の肉カレーだけどさぁ。よし、あたしもちょっくら世界経済動かしてくるわ」
 暑苦しい話を展開してくるおっさんから離れ、彼女はコンビニへ姿を消した。
 何だって?とおっさんは眉を寄せていると、彼女は小さな袋を持って戻ってくる。
「はい!世界経済動かしてきたよ」
 手にしていた袋を突き出され、彼は何だよと中身を見た。
 冷たいアイスクリームの袋が入っている。
「あたしがぁ、こうしてアイスを購入した事で日本のお金がちょーっと動いただろ?それによってちょーっと世界経済が動いたかもしんないじゃん!あたしの奢りだよ、夏休み無いおっさんにご褒美な!」
 女子高生にご褒美を貰うのってどうなのよ・・・とおっさんは思いながらも。
 折角こうして買ってくれたのだ。素直に受け取ろう、とアイスを引っ張り出した。そして冷たく甘いアイスを口にしながら、おっさんは呟く。
「何気に賢いかもしんないな、お前・・・」
「へへ、物は考えようだよな!」
 得意げに笑うサキコの横で、おっさんは久しぶりに口にするアイスの味を楽しんでいた。

 時刻は十七時半になっていた。