小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

レンタル彼氏。~あなたがいるだけで~

INDEX|23ページ/23ページ|

前のページ
 

 向日葵のように眩しい笑顔にひとめ惚れしてから、一体、何十年経ってると思ってるんだ? お前は俺の初恋の女なんだぞ。
 耳許で囁かれ、美奈恵は言葉を失った。
「俺たちは逃げるのだけは止めよう。逃げないで、現実から眼を背けないで生きていくんだ。それがお前を道連れにせず、生かす道を選んだお前の両親への何よりの供養になるだろうから」
 剛史の言葉が心に滲みてゆく。その言葉の一つ一つが温かな光となり、美奈恵の頑なに凍った哀しみに閉ざされた心をゆっくりと溶かしていった。
 涙の幕でくもった瞳に左手に填めたドルフィンリングが映った。剛史が結婚の記念にと買ってくれたダイヤモンドのリングだ。
 十月初めの澄んだ空気に道端の一輪の秋桜が揺れている。周囲がアスファルトだらけの中、わずかな土が残された一角から自生した小さな花は存外に強い生命力を見せつけるかのようでもある。たった一本の秋桜の薄紅色の花びらが秋の陽を弾いていた。
 次第に透明度を増してゆく初秋の光が小さなイルカの抱いたダイヤを煌めかせ、美奈恵はそのまばゆい光に眼を細めた。


 あの日、二十二年前、苛められて泣いていた小さな男の子、あの子が自分の運命の男だったなんて、考えたこともなかった。去っていった婚約者がずっと運命の相手だと信じ込んでいたのに、実は身近にその人はいたのだ。
 
♪儚いものへの 憧れだけで
すぐ目の前にあることを忘れてた
なぜにもっと素直になれなかったのだろう
君にまで

例えば君がいるだけで心が強くなれること
何よりも大切なものを気づかせてくれたね

 
 その男の子に貰った小さなオルゴールは今もずっと私の宝物。そう、君(あなた)がいるだけで、私は強くなれる。これからはもう一人じゃない。私は君と生きていくから。
 こんな近くにいたのに、ずっと私を見ていてくれたのに、私は気づかなかった。でも、やっと気づけたね、出逢えたね。
 大切なことに気づかせてくれて、ありがとう。私の大切なあなた。そして、あなたこそが私の一生の宝物よ。   
              (了)














向日葵
 花言葉―あこがれ、熱愛、私はあなただけを見つめる、あなたは素敵、光輝、敬慕、情熱。











 あとがき

 岡山にも久しぶりに昨日、雨が降りました。今日もしばらくは降っていたので、気温が上がらず、これまでの酷暑が嘘のように涼しいです。
 今月は琉球物と二つ書くことになりました。
 ところで、この作品は京都が舞台になっています。作中で出てくる清水坂の途中にあるお店―店前で無人なのに何故かピアノが鳴っているというお店は実在します。もう怖ろしく昔になりますが、小学生で修学旅行に行った時、初めてそのピアノを見ました。
 学校の怪談ではありませんが―笑、そこが人通りの多い清水坂で昼間だったから不思議ねーだけで済みましたけれど、夜、人気のないときだったら、きっと怖くて逃げ出したでしょう。
 何故か京都の印象はその光景がとても強かったのを憶えています。その後、私は何年か後に京都の女子大に入学し、四年間を京都で過ごすことになりました。附属の学生寮に入った時、二年生の先輩が新入生歓迎会として一年をどこかに連れていってくれます。
 私の部屋は四人部屋でしたが、先輩が連れていってくれたのが清水でした。そのときにもまだ店の前でピアノは鳴っていました。それを見た時、ああ、自分は京都に来たんだなと改めて感じたことがつい昨日のようでもあります。
 ただし、現在はそのピアノがあるかどうかは確信はありません。
 それから、やはり作品に出てくる東山七条にあるという大学は私の母校です。?女坂?というのも実在しますし、朝夕に登下校の若い女の子たちが行き交うので、こういう呼び方になったというのも本当です。この女坂という呼称はかなり古くからあったみたいです。
 岡山で生まれ育った私が唯一、地元を離れたのがこの京都で過ごした四年間でした。なので、京都は私にとって第二の故郷といえます。今回、初めて京都を描いてみましたが、智積院や三十三間堂、国立博物館、更に八坂さんや祇園、清水坂と幾度も京都滞在中に行ったことを懐かしく思い出した次第です。
 もちろん、大原の寂光院にも行ったことはあります。しかし何分、記憶がかなり曖昧なので、今回はウエブで検索をかけて写真を見たりしながら、当時の朧な記憶や自分が見た印象に肉付けしつつ書きました。
 大原は観光地として有名ですし、是非、一度は行かれることをお薦めしますが、京都駅からはかなり遠く、バスで一時間はかかります。またバス停までにも徒歩で二十分くらいは歩かなければならないので、時間的に少し余裕を見て行動なさった方が良いです。
 最後に、作中に出てくる米米クラブの?君がいるだけで?。これは安田成美さんと中森明菜さんが共演したという珍しいドラマです。明菜さんが歌手としてだけでなく女優としても開眼し、その才能を発揮した作品としても知られています。
 今回の主人公たちは一九八三年生まれ、更に二〇一〇年がこの話が繰り広げられた年に設定しました。なので、美奈恵たちが小学四年生というと、大体一九九二年です。その年に流行った歌を検索かけてみたら、米米の?君がいるだけで?がかかりました。
 私もこの時代は明菜さんの出たそのドラマを毎回愉しんで見ていたし、歌も大好きだったので、嬉しい偶然でした。当時、その歌やドラマが友情を描いたものだったので、何となく自分と親友―もちろん女友達です―の関係に重ねたりもしたものです。
 この作品で?君がいるだけで?を使おうと決めた時、そういった昔の懐かしい出来事も思い出しました。その友人二人とは今も付き合いが続いています。互いにその歌が流行った頃から今まで紆余曲折はありましたが、今も変わらない大切な親友です。
 今回、そんな経緯があり、途中からは、この小説を二人の親友に捧げるお礼小説の意味で書きました。もちろん、内容は女同士の友情とはかけ離れていますが、思い入れのある曲で彼女たちに私の?ずっと、ありがとう。これからもよろしく?という想いを伝えられたらと思います。
 あと、もう一つの?瞳を閉じて?も好きな曲ですが、これは二〇一〇年の流行歌ということで、二つの曲によって過去と現在を象徴するというか対比させてみました。ただ、切なめ系ののバラードはとても好きですが、この物語にはあまり―失恋・喪失の歌なので―、合っていないことに後で気づきました。
 やはり、この物語にいちばん合うのは米米の?君がいるだけで?だと思います。この曲が流行った年、私が幾つだったかはご想像に任せます。実年齢が思いきりバレますので―爆。
 今回、本当に久しぶりに懐かしいこの歌を聴いて、当時のことを思い出しました。あの頃はまだ独身でしたが、今は騒がしい四人の子どもがいます。時の経つのは速いんだなとしみじみと思います。
 では、今回もありがとうございます。
 来月はまた時代物に戻る予定です。
           東 めぐみ拝

2013/08/25