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りんごの情事

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最終話



 夏休みが終わって、今日から新学期。
 今年の夏休みは、なんだか色々あったような気がします。
 初めて東京で過ごした夏休み。世界が広がった夏休みでした。
 少しは成長できたかな。

 今日から9月になるけど、りんご荘はちょっとそわそわした感じです。。
 8月の終わりかけに、天花さんの作品がコンクールに入賞して、みんなで大喜びしました。もちろんパーティーもやりました。その時に、天花さんの口から爆弾発言がありました。なんと、天花さんはフランスに留学することを決めたそうです。10月から1年間、フランスのパリで美術の勉強をしてくるそうです。かっこいいなぁ。
 でも、ニタさんは勿論、一真さんもどこか寂しそうな様子でした。
 また、そのパーティーを機に、政宗さんがどこかに旅に出てしまいました。昔野さん曰く、政宗さんもまた半年かそれ以上部屋を空けると言って、大きな荷物を持ってどこかに行ってしまったそうです。ニタさんがアリスさんに何か知らないか聞いたところアリスさんもまた知らないとの返事でした。弟の明吉さんは何かを知っているようではあったのですが教えてはくれませんでした。
 ただ、政宗さんは時々忽然と姿を消すことがあるそうです。明吉さんが小学生のころにも急に姿を消して、中学3年生のころにひょっこり戻ってきたらしいです。
 他には、9月の半ばに、新しい人がりんご荘にやってくるそうです。昔野さん曰く、ナイスバディできれいなお姉さんだとか。一真さんがあまり嬉しくなさそうにしているのでどうしたことかと思ったら、どうやら一真さんの従姉らしいです。

 明吉さんは、プロで野球を続けるということを、前向きに考えていくらしいです。本当に才能を持っているならば、無駄にするのはもったいないと考えたらしいです。いろんな人と話をしているらしいです。
 私は、多分誰よりも変わらずにいます。
 変わったと言えば、大崎への執着がなくなったことくらいです。おかげさまで気持ちが晴れ晴れしています。これが「世界が変わる」ということなのでしょうか。
 あの福井の旅で、私は明吉さんを特別な存在に感じました。
 明吉さんは、まだこんな私のことを好いてくれています。凄く大切にしてくれます。
 でも、私自身は明吉さんの傍にいられるレベルに達していないと思います。明吉さんは私のことをとても大切にしてくれますが、私はそんな明吉さんに頼ってばかりで、何も恩返しができそうにないです。そんな自分がなんだか虚しく感じられ、苦しいので、私も明吉さんのように目的を持って生きていこうと、思いました。
 そして、明吉さんと同じ目線の高さで世の中を見ていけるようになった時、明吉さんに対して特別な思いを持ち続けることが出来ていたらいいなぁと思います。
 だから、やっぱりまだ待ってほしいと伝えました。
 明吉さんは「いつまでも待つ」と言っていましたが。世の中に女は星の数ほどいるのです。どうなるかは分かりませんが、その時までに私が成長できなかったら私がいけないのです。後悔はしません。

 福井から戻ってきた後、ニタさんに質問攻めに合いました。明吉さんに変なことされてないか、寝てる時に襲われたりしていないか、大崎に変なことされなかったか、などなど、いろいろ質問されましたが、一つだけ嘘吐いちゃいました。
 福井での2日目の夜、私は明吉さんとキスをしてそのまま同じベッドで寝てしまいましたが、それだけはニタさんにお話ししませんでした。ちょっとした二人だけの秘密です。

 りんご荘で、私は頑張っていきます。
 強くなれるよう、私は私なりに。
 直近の目標としては、保健委員会の委員長を目指そうと目論んでおります。

 またいつかお会いできるその時まで、さようなら。

作品名:りんごの情事 作家名:藍澤 昴