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りんごの情事

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 あれから2週間がたった。学校の夏期講習がない日は、皆で昔野の家で甲子園の試合を見ている。
 素晴らしいことに、秀麗学園は1回戦を勝ち抜き、2回戦までも勝ちぬいた。深夜に放送される甲子園特集番組では、何度も秀麗学園が、榎本明吉が、取り沙汰されている。そして、今日は、3回戦を迎える。相手は何度も甲子園出場を果たしている古参の強豪南白浜高校だ。テレビや世間の下馬評では、勢いに乗った秀麗高校も、さすがに南白浜高校には及ぶことは出来ないだろう、と言われている。
 仁田村と政宗がメガホンを持参して、本気の応援を試みている。
 りんご荘一同は、この試合にかけている。
 なぜならば、準決勝と決勝だけは観に行こうとしていたからだ。
 既に、交通手段と向こうの宿は手配している。政宗が自費を投げ打って全員分手配したのだ。一生懸命バイトを頑張っていた理由の一つがこれである。大切な自分の弟の晴れ舞台だ。なんとしてでも応援しに行かなければ、兄としての政宗の気が落ち着かなかった。だからこそ、この3回戦で負けてはいけない。秀麗学園はこのりんご荘の皆(特に政宗)のためにも、勝たなければならない。
 來未も、ジャイアンツのキャップを被って、応援に望む。前に北澤高校の野球部のマネージャーの応援に行った時に野球のルールを覚えていたので、良い経験をしたとしみじみ感じていた。
 5回表、南白浜高校の攻撃で、とうとう1点が入った。三塁方面へヒットが出て、その後スクイズで先頭打者が2塁へ。そして、3人目のフライでエラーが起こり、先頭打者がホームへ帰還。政宗の落胆ぷりと言ったらなかった。
 だが、兄とは異なり、テレビの中のマウンドに立つ明吉の様子に焦りは見えない。そのまま残り二人を打ち取り、無事に攻撃回へ回った。
 と、突然ニュース番組が始まる。ちょうどお昼を回った。
 ほっとしたように皆一様に胸を撫で下ろす。
「まだ1点だ、まだ1点!」
 メガホンを叩きながら、仁田村が言う。政宗もそれに続いて「そーだそーだ」と言う。
「ところで、くーちゃん、その帽子、どうしたのさ。ジャイアンツだよね?友達と観に行ったの?」
 メガホンで來未のジャイアンツの帽子を指し示しながら仁田村が尋ねる。正直に明吉から受け取ったというのも気がひけたので
「あ、はい。風子と一緒に行ってきました。」
と、とりあえず仁田村の話に乗っかって置くことにした。
「へー。懐かしいな。東京ドームなんてしばらく行ってないな。」
 政宗は目を細めながら、來未の帽子を見つめる。
「何年か前に明吉と一緒に東京ドームに行ったきりだな。」
「よく明吉が嫌がらなかったね。」
 仁田村が横やりを入れる。
「あいつはツンデレなんだ。俺に対してだけ。なぁ、くーちゃん。」
「え、でも勝てない相手だっては言ってましたね。」
「ほら、本当は俺のこと偉大な兄として尊敬しているんだよ。」
「お前がろくでもなさ過ぎて、呆れてるんだろ。」
 一真が呆れたように言うと、政宗は肩を落として拗ね始めた。龍と仁田村はその様子を見てげらげら笑っている。
 ニュースが終わって試合中継に戻ると、5回裏、2点が入っていて秀麗学園が逆転した。試合はそのまま進んで行き、途中秀麗学園が1点を追加して、南白浜高校が反撃することないまま試合終了を迎えた。
「うおおおお!やったー!明吉!良くやった!」
 メガホンを叩きながら勝利の咆哮を上げる政宗。仁田村と天花と來未、龍と一真と昔野は手を取って喜びあった。
 秀麗学園はとうとう8強入り。おそらく、明日の新聞の一面に秀麗学園は大きく乗るだろう。そして、今日の甲子園特集番組にも大きく取り上げられるだろう。りんご荘の英雄は甲子園で特別な輝きを放ち続けている。
「いくぜ!甲子園!」
 政宗はガッツポーズで叫んだ。


作品名:りんごの情事 作家名:藍澤 昴