ヘリテイジ・セイヴァ―ズ ノベルゲームシナリオVer.
【智達】「最近、物資が転送されなかったもの、それが原因のようだ」
その事実に、胸の中にある『怒り』と言う感情が飛び出そうだ。
【乙愛】「な、何よ、自分たちの都合の良い様に私たちを動かしておいて! 『未来技術』で島を救ってくれと言ったのは政府なのに! これじゃあ、棄てられたも同然じゃない!」
ほんと、自由奔放な政治家たちには腹が立つ! この危機すらなかったことにするなんて冗談じゃない。
目の前のことに立ち向かわず、逃げているだけではないか。
※智達、メガネを上げる
【智達】「ああ、まったくだ。でも」
【乙愛】「でも?」
※智達、微笑む
【智達】「政府の動きとは別に、本部も必死に立ち向かってくれている。同志がいるだけでも十分じゃないか。まだ、希望は失ってはいない」
【乙愛】「父さん……」
父さんはいつだって前向きだ。こういった絶望的な中でも、諦めずに前へ進もうとする。
逃げる政府とはまったく違う。
本当に、強い人だ。
※智達、真剣
【智達】「それで、ここに来たと言うことは、おまえに任せた例のプロジェクトは最終段階というわけか」
【乙愛】「うん」
※智達、メガネが白くなる
【智達】「そうか……」
急に重々しい空気が漂う。
※丸峰、真剣
【丸峰】「旦那さま、お嬢様はもう覚悟はできております。止めてももう、無駄に時間を労するだけです」
※智達、メガネが白くなる
【智達】「……」
※智達と丸峰の立ち絵を表示しない
数分の沈黙が続く。
すごく長く感じる。
黙ったままじゃあ、何も始まらない。
何か言わないと。
【乙愛】「と、父さん、あのね……心配なのは分かってる。だけど、誰かがやらないと……」
※立ち絵を表示しない
【智達】「乙愛」
父さんは私へと近づき、
※フェードアウト(さっと暗くなる)
■未来の宮島 研究地区 秘密の研究施設 智達、乙愛の頭に手を置く
※フェードイン(さっと表示)
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
ポン、と私の頭に手を置いた。
【智達】「分かっているさ。おまえも亡くなった母さんみたいに頑固だしな」
【乙愛】「が、頑固とは何よ」
イラッと来たので、ちょっと拗ねてみせる
【智達】「まさか、ダメもとで言った、わたしの突拍子もない計画が、お前の手で動くことになるとはな。血は争えないか」
優しい双眸で、私を見つめてくる。
【智達】「あの弱虫で、泣き虫のおまえが、この5年間で大きく変わるとはな。な、丸峰」
【丸峰】「ええ。お嬢様は強く、立派になられましたよ」
父さんは、ニコニコ顔の丸峰を見やる。
【乙愛】「そう言われると……なんかだか、恥ずかしい」
【智達】「ははは。そういう子供の成長が、わたしたちには嬉しいんだよ」
【乙愛】「子供って言わないでよ。私ももう20歳(はたち)だから」
【智達】「わたしからしてみれば、まだまだ可愛い子供であり自慢の娘、だ」
【乙愛】「だーかーらー、それが余計なの!」
思わずムキになってしまう。
【智達】「分かった、わかった」
拗ねた私に苦笑いを浮かべる。
【智達】「……乙愛」
※クロスフェード(すぐに次のCGに切り替わる)
■未来の宮島 研究地区 秘密の研究施設 智達、乙愛を抱きしめる
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
父さんは、私を優しく包み込んだ。
【智達】「覚悟、できてるだな?」
【乙愛】「……うん」
【智達】「だったら、俺はもう何も言わない。おまえしかできないことを、『自分の道』を信じて立ち向かっていけ。いいな」
【乙愛】「分かった。ありがとう」
父さんは、さらにギュッと抱きしめた。
気さくで優しくて、ちょっと厳しくて。まっすぐに、ひたむきに走り続ける父さん。
私は、そんな父さんが大好きだ。
だから私も、父さんのように歩き続けるよ。
父さんからもらったこの温もりを抱きしめて。
この時代の宮島が、笑顔に包まれるところを――。
※フェードアウト
■未来の宮島 研究地区 秘密の研究施設 会議室 朝
※フェードイン
二日後の朝。
朝と言っても、ここは地下であるし、外はジャームで充満している。
本当の空を見て迎えられないのは、すこし寂しい。
父さんがこの地下室内にいる研究者たちを会議室に呼び、今、その中心に私は立っている。
部屋の椅子や机、機材を片づけられており、やたらとこの部屋が広く感じた。
たくさんの研究者たちが私を見守っている。
※智達の立ち絵を表示。真剣
【智達】「――準備はいいな」
私は黙ってコクンと頷く。
右腕には青い玉が埋め込まれた白いリストバンド。左腕には機械仕掛けの腕時計。抜かりはない。
※智達の立ち絵を表示しない
※丸峰の立ち絵を表示。礼をする
【丸峰】「ここから、お嬢様のご武運を祈っておりますぞ」
【乙愛】「ありがとう。私は必ず、戻ってくるよ。必ずな」
※丸峰、微笑む
【丸峰】「ええ」
※丸峰の立ち絵を表示しない
※研究者(男)Aを表示。真剣
【研究者(男)A】「お嬢様、頼みましたよ。俺たちもこっちで全力で、この島のために頑張りますから!」
【乙愛】「ああ。絶対に叶えて見せる。みんな、ここは頼んだよ」
【研究者たち】「お嬢様――――っ!」
※研究者(男)Aの立ち絵を表示しない
私に対するエールが研究者たちから送られる。
みんなの期待に、私は必ず答えて見せる。
力を合わせてやってきた、このプロジェクトの集大成として!
※智達の立ち絵を表示。真剣
【智達】「……」
父さんが黙ってうなずく。泣くのを我慢しているように見えた。
――出発の時間だ。
※智達の立ち絵を表示しない
【乙愛】「では、行ってくる」
私は彼らに背中を向ける。
ピリピリと張り詰めた空気を感じる。
【乙愛】「……」
胸に手を置く。
――大丈夫だ。きっとできる。できるんだ!
覚悟を決めて、左腕を白い壁に向けて――。
※フェードアウト(さっと暗転)
■未来の宮島 研究地区 秘密の研究施設 時間移動する乙愛 会議室 朝
※フェードイン(さっと表示)
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
【乙愛】「我が望む時空へつながれ! 時空空間(タイムフィールド)、開場(ゲート・オン)!」
※時空移動する音
ゴオオオオオオオオオオッ!!
※画面が白く光り、すぐにCGが切り替わる
■未来の宮島 研究地区 秘密の研究施設 会議室 朝
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
【丸峰】「……行かれましたな」
【智達】「ああ」
【丸峰】「泣かないんですね」
作品名:ヘリテイジ・セイヴァ―ズ ノベルゲームシナリオVer. 作家名:永山あゆむ