夏の陽射し
幸せな時間
そんなこんなで、いろいろありながらも高校生活二日目、待望の昼休みがやって来た。
俺は弁当を持って、誰よりも早く教室をでる。
「コラーー!!渡辺!!!先生より早く教室を出る奴があるかーーー!!!」
先生の静止する声も俺には聞こえなかった。
二年生の学年棟まで2分とかからなかった。驚異的な記録だと我ながら感心する・・・「久美!!」
そこが二年生の教室であることも忘れて、大声で実澪を呼ぶ。
クラス全員が
「誰だ?」
みたいな目線を送る。
「カズちゃ・・・カズ!!」
呼びなれない呼び方に俺は一瞬力が抜けたが、実澪に向かって大きく手を振る。
実澪が、弁当を持って俺の隣に来るまで10秒もかからなかった。
「お待たせ。ちゃんと来た。」
「うん。ありがとう。」
「レイ、誰?これが例の彼氏?」
「あ、栞。・・・まあね。かっこいいだろーー」
「栞」と呼ばれた少女の名札を見やると、「鷹野」と書かれていた。
「実澪に彼氏!?嘘っ!あれだけ断り続けてきたのに!!」
そんなに告白されていたのか・・・やっぱり実澪はモテるんだな・・・
「ちょ・・ちょっと!!もういいよ!!カズ!!ご飯食べに行こ!!バイバイ!栞」
実澪は強引に俺の手を引っ張っていった。
周りの年上の男たちの目線に二人とも気付いていなかった。
「うわー、実澪の弁当旨そうだな」
屋上で広げられる弁当箱たち。
女の子らしい大きさの弁当には小さめのおにぎりが一つ、色鮮やかな野菜、冷凍食品では絶対にないものが詰められていた。
「ほんと?今日は私が作ったんだよ。」
「え?これおばさんが作ったんじゃないの?・・・大丈夫か・・・?」
「それ、どーいう意味?」
「ん?旨そうってこと!」
パクッ
実澪の弁当にあった、肉じゃがのじゃがいもをいただく。
!?
旨い・・・・
「どう?」
実澪が心配そうに上目遣いで俺の顔をのぞき込む。
「いやいやいやいや!!!旨すぎッス、姉さん!」
ボカッ
「姉さんって言うな!」
「・・・旨いっす、あねg・・ハウッ」
言い終わらないうちに実澪に腹部を殴られる。
「吐くだろ!!」
「そんなに不味い?」
「だから、旨いって。」
「・・・嬉しい・・・」
今日の昼食の時間はなんとも幸せな時間だった。
こんなに楽しく、美味しく幸せな気持ちでご飯を食べたのは初めてじゃないか、と思うくらい幸せだった。
その日の夕方、俺は用事があるから、と言って実澪に教室で待っていてくれと頼んでいた。
「カズちゃん遅いナ・・・」
実澪は俺が来るのを教室で一人で待っていた。
「おー、池上。まだ帰らないんか?もう下校時間過ぎただろ。」
そこに現れたのは実澪のクラスの担任の田所先生だった。
「先生!あ・・・んと・・・人待ちです。」
「そうか・・・一つ話があるんだが5分だけいいか?」
「・・・?はい。」
「最近何かいいことでもあったのか?」
「え!?なんでですか?」
「いや、俺も教師をやって長いからな。池上、男ができたろ。」
「は!!?」
「いや、それはいいことだと思うんだが、授業中ボーッとしすぎだぞ。今日はずっと外を見てただろ。ありゃ男が出来た時の目だ。」
実澪は田所に完璧に当てられ、顔が真っ赤になる。
「いや・・・まあ・・・その・・・」
「いや、いいと思うぞ。若いうちは恋してナンボだからな。はっはっは!!」
「そ、そういえば先生って教師何年目なんですか?」
実澪は話題をそらしたくて無理やり話題を変えた。
「ん?そうだな27年目かな。」
「先生って大変ですか?」
「う〜ん・・・まあ大変と言えば大変だけど、お前らが学校を卒業してくれればすごく嬉しいな。まあ、卒業せずに辞めていく奴も多いけどな・・・」
「私・・・先生になりたいんです。でも、大変だったら嫌だなって。」
「池上。大変じゃない仕事なんてないんだぞ。」
「はい。」
「まだ若いんだ。自分の気持ちに正直に、いろいろやってみろ!レールの上ばかり歩いてると、人生終わってしまうぞ!!」
「・・・はい!!」
「まあ、せいぜい今は渡辺と仲良くすることだな。あいつは教師の俺から見てもいい奴だと思うぞ。じゃあな。気を付けて帰れよ!!」
「!!!」(なんでカズちゃんと付き合ってるって知ってるんだろう・・・)
もうすぐ春も終わろうとしている5月。
俺と実澪はあいも変わらず、幸せな日々を送っていた。
「おーい、カズー!起きろー!!」
「うーん・・・・・・」
俺がゆっくりまぶたを開けるとベッドの横に実澪が立っていた。
じっと俺の顔を見つめるその瞳は、相変わらず綺麗だった。
「おい!いい加減起きてよ!!」
実澪の瞳に思わず見とれていたようだ。
「なんだよー・・・今日日曜だろー。ゆっくり寝かせてくれよー。今日は久しぶりに部活ないんだよー。」
俺はこの間、実澪を待たせていたとき、勇太に連れられて野球部に入部した。そう。半ば無理やりに・・・。しかも初心者なのに・・・
そこまで強くはない部ではあったが、体育会系のノリに慣れていない俺にとっては日々大変だった。
「わかってるよー。」
「わかってるんだったら、寝かせてくれー・・・・・・グゥ・・・」
「おいコラ!起きて!今日の約束忘れたの!!??」
「なんかあったっけ・・・?」
「あーー!!忘れてる!今日はデートに連れていってくれるんでしょ!!」
「・・・あー・・・忘れた・・・」
「・・・ふーん。そういうこと言うんだ・・・」
バフッ!!!!!!
「ハウッ・・・」
まさにダイビング。きれいに俺の腹に実澪が降ってきた。
「・・・・・・・・・・・・・イッテえよ!!!このやろ!!」
「きゃーーー!いやー!やめてー!!」
俺は実澪のほっぺたを引っ張った。
まあ、その伸びること伸びること。
「はめへー。ハフー。いはいよー。」
「ごめんなさいは!?」
「ごへんなはい・・・」
涙目で上目遣いに謝る実澪に、俺は思わずニヤけてしまった。
(こ・・・これは・・・・・・いい遊びを見つけた・・・)
俺がようやく着替え出すと、
「流れで謝っちゃったけど、悪いのはカズだからね!!」
と、少しふてくされたように実澪は言った。
そしてその顔もまた可愛い。
「わかってるって。ごめんごめん。」
「むぅーー。反省してない。」
「悪かったって。ごめん!!」
俺は手を合わせて頭を下げた。
実澪は少し顔を赤くして言った。
「・・・ほんとに悪いと思ってる?」
「思ってる思ってる。」
「・・・じゃあ・・・キスして?」
そう言うと実澪は恥ずかしそうに顔を下に向ける。
「ごめん!」
そう言うと俺は実澪の頬に手をあて、唇と唇を重ねる。
「・・・許す・・・」
「え?」
「許してあげる!!その代わり今日は私のショッピングに付き合うこと!!」
「了解です!!姉さん!!」
「姉さんは余計!!」
「うーー・・・ちょっと熱いな・・・。」
実澪と繋いでいるその手にもじっとりと汗をかいている。