夏の陽射し
何かが起こる・・・
今年のドラフト会議も終わり、もちろん地区大会一回戦負けの栄光高校の先輩たちに指名がかかるわけもなく、何事もなく月日は過ぎていった。
練習のときには常に取材陣が付き纏い、時にはストレスがたまることもあったが、実澪の存在によって何とか持ちこたえていた。
そんなある日のことだった。
練習が終わり家に帰ってみると、実澪の姿がない。いつもなら練習から帰ってくるといつも俺のマッサージをしてくれるのだが。
なんとなく心配になり、実澪の携帯に電話をかけてみるが出ない。メールも返ってこない。
虫の知らせ、悪い予感というものはよく当たるもので、その時の俺もどこか気持ちの悪い感覚を覚えた。
それが何なのかはわからないが、とにかくいやな感じがしたのだ。
制服姿のまま家を出て実澪の家に向かい、おばさんに聞いてもまだ帰ってきていないという。
俺は全力疾走で実澪の家を出て、携帯で実澪に電話をかけ続けた。
実澪の行きそうなところをくまなく探したがどこにもいない。
「くそっ!どこにいるんだよ!電話出てくれ・・・!」
俺は息を切らして町中を探し回った。30分程過ぎたころ、商店街から一本奥の道を通りかかった。
その時見覚えのあるキーホルダーをみつけた。
「実澪の鞄についてるやつだ!」
それは俺がまだ小学生の頃に実澪にあげた、布製のキャラクターのキーホルダーだった。
俺の自作のキャラクターで、世界にこの一つ限りしかない。実澪が落としたに違いなかった。
その時、俺の携帯にメールが入った。
『たすけt』
実澪からだった。
「実澪ーーー!!!実澪どこだーー!!」
俺は叫び続けながらその周辺を探し回った。
その時、細い横道の方から微かだが、聞きなれた声がした。
その声に導かれるまま、その小道に入って行った。
そこには猿轡をされ、腕を後ろで縛られ、ぼろぼろになった制服を着た実澪がいた。
「実澪!」
猿轡と腕を縛っていたロープを解くと、実澪はみるみる間に目に涙を溜め、俺の胸に飛び込んできた。
ただひたすらに泣いている実澪を俺はしばらく抱きしめることしかできなかった。
俺は胸の中に実澪を抱きしめながらも、何が起こっていたのか理解できなかった。
いや、理解したくなかったのかもしれない。
実澪の破れた制服、土まみれになった体、鮮血を吸い込んだ靴下。
何より、実澪のこの悲しみと絶望に満ちた表情を見れば、大体のことは想像できてしまう自分が嫌でしょうがなかった。
「実澪!!大丈夫だ。もう大丈夫だから…大丈夫…」
実澪のこの様子を見てしまったら、大丈夫以外に言葉が出てこなかった。