花の咲き誇る場所へ
視線が、交わる。
結界に包まれたアンリが他の人間に姿を見られることなどないのに、それでもはっきりと視線が交わっているのを感じる。青紫と青い瞳が確実に交わった。
「お花、ある?」
小さな声でニコラは呟いた。
「え?」
「ママの好きなお花、ある?」
周りから見れば、ニコラが独り言を言ってるに過ぎないだろう。だがニコラにはアンリの存在が分かるのか、まっすぐにその穢れない大きな瞳を向けてくる。
「……あるよ、綺麗なお花がいっぱいね」
聞こえはしない声を、アンリは穏やかな笑みでニコラへと向ける。そしてそのまま、輝く虹色の魂を手に、その場から姿を消した。
可愛い少女の大切な母の魂を、花の咲き誇る美しい場所に送り届けるために。
(了)