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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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 祐一の方を見ながらも焦点が定まっていない平家の目からも、涙が伝う。
 『どうしたらいいのか分からない』。
 平家の表情が、そう語っていた。
 祐一は小さくため息をつくと、一つ、頷く。
 平家の表情が、赦しを得た罪人のように、崩れて行く。
「結衣ちゃん。……ちゃんと言ってあげられなくて、ゴメンね。アタシ、ホントはこれがいけないことだって分かってたのに、ちゃんと言ってあげられなくて……。言ったら、結衣ちゃんに嫌われちゃうのかも知れないと思って……怖くて……言えなくて。ゴメンね」
 平家の両腕が、縋り付いている尾形の小さな身体を掻き抱くようにきつく抱きしめる。
 それから二人は、暫く泣いた。
 祐一は、心配そうにこちらを見ていた司書に、唇の前で人差し指を立てて『済みません、もうすこしだけ』と、頭を下げて訴えた。
 少し相手に甘えただけ、相手を失うのが怖かっただけ、そして、お互いを傷つけたことが申し訳ないだけ。
 それでも、二人には、前に進んでもらわなければならない。
 頃合を見計らって、祐一は口を開いた。
「……彼ら同様、お前たちにも前に進んでもらうため、俺はお前たちとこの『念書』を交わすことを提案する」
 祐一は、作成した『念書』を取り出す。
 幾つかの条文の中には基本的な友好関係構築用に用いられる内容のほかに『どちらかが告白を受け、それを断る際には、片方に押し付けず、力に勝る男子の『万が一』に対抗するためにも、二人で、或いは本人が誰かを伴って返事をしに行くこと』という内容が付け加えられている。
 ――結局、平家と尾形もまた、揃って念書に署名をし、拇印を押した。