アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一
心当たり
昨日別れた後、平田の提案で、昼食はコーラス部と空手部の一年が合同で、第二音楽室で摂ることになったそうだ。
昨日の礼もあって昼食代をカンパしてもらえることになった祐一もまた『お呼ばれ』ということで第二音楽室に世話になっていた。
見知らぬ女子や男子が次々に『多めに作ってきたおかず』やら、『ウチの自慢の肉巻きおにぎり』やらをカンパしてくれる。
雰囲気は、和気藹々としており、非常に良い。
『上履き泥棒』についても、怒りの様相を同時に呈しており、あることないことの憶測が食卓(というか、机を纏めての車座状態なのだが)に登っていた。
(……これは厄介な事になったかも)
午前中にあちこちで聞こえてくる情報を見聞きした限り、空手部もコーラス部も、それなりの数が『盗難』に遭っており、空手部やコーラス部の人間以外にも、多少の被害者が居るようだ。
しかし、主な被害者が『内部生同士』ということも有るのか、『一致団結してこの危機を乗り切ろう』という風な気運が生じつつあるのが、祐一の目には『視える』。
祐一は、自分の下駄箱にあった手紙のことを何も話していないので、彼らはこの一件の大元について、祐一の考えている場所にまでは至ってはいないようだが、数人は祐一の描いている犯人像に近い位置にまでたどり着いているようだ。
大きな揉め事になる前に抑えておきたいが、既に悪戯としてはかなりタチの悪いレベルに居ることも確かなようだ。
(二・三日中には何とかしないとな……)
今持っている印象を確認するだけで、数日は掛かる。
それまで、彼らが大人しくしてくれていればいいのだが。
作品名:アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一 作家名:辻原貴之