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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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ある少年の日常


 今日もあの手紙が回ってくる。
『今日も失恋慰労会を開催します。ついては以下の商品を昼食時に仕入れておくように』
 何が失恋慰労会だ。
 友人の一人が同学年で抜群の美貌を持つ少女に大それた告白を行って、盛大に、しかも情けない方法でふられたのは彼もよく知っている。
 それに、この『慰労会』とやらも、GWが明けてからずっと続いているのだ。
 本当の目的はそこにないことは明白だった。
 要するに彼らは、それを名目にして自分を『使い』たいのだ。
 ただ、それを『イジメ』と呼んでいいのか、彼には分からない。
 時に彼らは優しい声を掛けてくれるし、殴る蹴ると言った行為に及んだことはない。
 実際に人を憎むことも好きになることも苦手な彼には、貴重な話し相手ではある。
 だが、その関係はどちらかと言えば、友情というよりは『パシリ』と『使う側』のそれに近いと思う。
 彼らにしても、その感覚は『パシリ』ではあっても『イジメ』ではないだろう。
 世間にはもっと酷い『イジメ』があることを彼は知っていたし、メディアなどで見聞きする機会もあった。
 自分の趣味を利用して最近させられていることも、その『パシリ』の一つ。
 とはいえ、あまり気分のいいものではないが。
 しかし、それでも他人と争うことが苦手な彼は、ここでまた、ひとつ、妥協する。
 手紙に小さく『OK』と記した紙を、送り主の元へ返してもらう。
 別にいじめられているわけではない。
 『パシリ』にしても、決してたかりと言うほどのことではなく、調達さえすれば代金は払ってくれる。金に困るほどの商品点数も要求されない。
 だが、彼らを失えば、彼には話し相手が誰ひとりとして存在しないのだ。
 だから已むを得ず、今日も小さな妥協をする。