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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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【302号室 藤井祐一(4)】−『平家あずさの事情』− 〜プロローグ〜



「ゴメンね。結衣ちゃん、貴方とはお付き合いできないって」
 放課後の屋上。
 それは決して、自分の口から言いたくはない言葉だった。
「な、何でお前からそんなこと言われなきゃならないんだよ」
 目の前の少年が結衣ちゃんに告白したのは、三日ほど前のことだった。
 その時、結衣ちゃんがした返事は『少し時間をください』。
 そして今日、彼は彼女に呼び出された。
 しかし、そこに待っていたのは別の人物だった。
 つまり、それが自分。
「うん、アタシも結衣ちゃんに自分で言った方が良いって言ったんだけど、『どうしても面と向かってお返事する勇気がだせない』って言うの」
 結衣ちゃんはいつもそうだ。
 困った相手になると、いつも『お願い』される。
 そして自分は、どうしてもそれを断り切れない。
「それで、お前が…」
「うん。『代わりにお願い』って頼まれちゃって」
「お前、頼まれたら、そういう事出来るのか?」
 少年が、怒りのこもった表情で自分を睨んでくる。
 それはいい。
 仕方の無いことだ。
 でも、そうしなければ結衣ちゃんは決して答えを返さないだろうし、それは彼のためにならないだろう。
 だから、嫌な役目だが、引き受ける。
「だって、君だって返事がもらえないのは、苦しいでしょ?」
 自宅での生活で、相手に返事さえもらえない、相手にもされない状況になってしまう『その痛み』を自分はよく知っているから。
「だからって、何もこんなやり方……」
 少年は、自分を睨みつけている。
 彼の内心が、今はよく分かる。
 真剣に交際を申し込んだにも関わらず、本人以外から口頭で自分の失恋を知らされる、その恥辱と不満、憤怒たるや、並の激情ではない。
 やがて少年は、自分を睨みつけていた眉根を限界にまで寄せると、叫ぶように、怒鳴るように、泣くように、声を張り上げた。
「ふざけんな!!」
 そうして、ひとつの恋が終わった。