アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一
桑原は明日香や遥をいたぶって、健を苦しめるつもりで居る。
そして、その段階から防がねば、祐一の勝利ではない。
『そうか。警察は、今現地の実況見分中だそうだよ。まだそれ程動いてない。こちらから何もしなければ一時間はやり放題だ』
「お前、何人使ってるの?」
状況把握の速さに、祐一は舌を巻く。
『現場近くだと十人程度かな。そっちと直接やり取りしてるから、楽っちゃ楽だよ。請求書はきっちり回すから、心配しないで』
「…金のことは考えたくないが、助かった。礼を言う」
祐一は地図の場所をプリントアウトすると、準備を終えていたディバックを背負い、窓を開けた。
天井のフックからハイツの壁の色に同化するよう塗りなおしたロープを下ろす。
この格好で玄関から出るわけには行かない。
『おうよ。愛してるぜ、マイバディ』
「知っている。生き残ったらまた会おう」
祐一は黒ずくめの特殊警察隊のようなスーツに、フェイスマスクをかぶると、その上からガスマスクを被った。
改造したガスマスクはボイスチェンジャーを内蔵していて、声を出しても単純に自分だとは分からない。
そして祐一は、夜に同化する。
「『リミッターオフ』」
作品名:アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一 作家名:辻原貴之