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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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幸せな日々の終わり、不幸な出来事の始まり



 平田健がジョギングウェアに着替えて階段を降りると、妹の一人、遥がそれを見とがめた。
「兄貴、どこ行くの?」
「ちょっと走ってくる。最近、身体が鈍りがちだからな」
「ちょっと、お兄ちゃん、もうすぐ夕飯だよ!?」
 何かを炒める音と共に、台所からもう一人の妹、明日香の声がする。
 妹たちの担当は、片方が室内掃除と洗濯、もう片方が料理に分かれている。
 皿洗いと風呂掃除、ゴミ廃棄に自宅周辺の掃除が、健の担当だ。
「一時間もすれば戻るって」
「もー、マーが我慢できないかもよ。そうしたら先に食べちゃうからね!」
「あぁ、そうしてくれ」
 調理担当の明日香が漏らす不満の声に答えながら、健は家を出た。
 鍵はしっかり閉める。
 妹たちだけでは無用心だからだ。
 小学校五年でもう分別はつくとは言え、暴れざかりの優が居る限り、玄関の鍵は閉めておくべきだろう。
 家を出て走り出すその背後で、何人かの影が平田家に迫っていることに、健は気付いていなかった。


 一時間後、ジョギングから戻った健は悲惨な光景を目にする事になる。
「なんだよ、これ…」
 目の前に散乱する室内の跡は、妹たちが抵抗した跡だろう。
 包丁が、床に刺さっている。
 TVはつけっぱなし。
 流石にガスは止まっていたが、荒らされた跡が無数に残っていた。
 ただ、一家が揃うはずのテーブルの上には一枚のメモが置かれていた。
「兄弟は預かっている。警察には連絡するな。先ずは『昇龍軒』へ行け」
 残されたメモを手に、健は施錠をし、家を飛び出した。