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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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章間 −暗闇より−



「あのクソガキめ…許さんからな」
 完全に目の据わった中年男性が、酒瓶を片手に商店街を歩いていた。
 昼間から商店街をさまよう酔っぱらいに、周囲の人間は明らかに彼を避けていた。
 が、だからどうしたと言うのだ。
 酒瓶を握る手には無数の傷跡と血。
 電信柱を拳で叩いた跡だった。
「俺の人生を壊してくれた分、あいつの人生も壊れてくれないと割に合わないよな」
 もう一発、電信柱に拳を入れる。
 激音を立てて、拳から血が飛沫いた。
 だが、なんだと言うのだ。
 酒が入っていることもそうだが、このような感触、痛みでも何でもない。
 職を失って、信頼を失って、社会からも見捨てられたことに比べれば、これは痛みではなく、男にとってはただの傷でしか無かった。
「おっと、人生を狂わされたのは、俺ひとりじゃなかったな…。そいつらの分も、あいつの人生は壊れてくれないとな」
 男はポケットから携帯を取り出し、名前を探し出す。
 そして数コール。
 相手は程なく通話に応じた。
「おう、菅野。俺だ。………お前、自分の人生狂わされてつらいよな?」
 そして、狂気は狂気を呼ぶ。