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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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「ウチはお金はありませんが、料理の愛情だけはバッチリありますから。藤井さん、この借りはいずれウチに夕飯食べに来てくれた時にお返しします!」
 明日香が負けじと主張したところで、店主が中華鍋を打ち鳴らした。
「おっと、ウチの料理にも愛はたっぷり詰まってるよ!いらっしゃい、平田家の坊っちゃん、お嬢さん方!!たけ坊も、久しぶりだな」
 店主はスキンヘッドにバンダナを当てた三十代後半の、如何にも『職人修行してきました』と言った風情のある、気風のいい男だった。
 どうやら健たち平田家の皆さんとは顔なじみのようだ。
 店内は、まだ時間が早いこともあって客は殆ど入っていない。
 しかし、この時間にも関わらずチラホラと客の入りが有るということは、逆に言えば『そこそこ出ている』ということでもある。
「どうも…。すみません、妹たちが失礼なことを」
「はは、いいっていいって。プロにはプロの、家庭には家庭の『愛情味』ってのが有るもんだ。どっちが旨いかなんてケチなことプロは言わないもんだが、ウチの味に愛情がないように聞かれかねない事までは言ってくれるな、一応おっさんにもプライドがあるんでな」
「は、はい。ゴメンナサイ」
 恐れ入った、という風に明日香が頭を下げる。
「はは、分かってくれりゃ宜しい。食って納得してくれりゃ尚いいさ。ささ、座れや」
 明日香の謝罪をすんなり受け止めると、店主はオタマで店内を差した。
 優を先頭に、平田兄弟と祐一はズラズラと店内に入っていく。
 子供たちが暇を持て余しそうなことに気を効かせたのか、店主がTVのチャンネルを子ども向けアニメのチャンネルに切り替えた。
「そっちは『初めまして』だね。お友達かい、たけ坊?」
「藤井といいます。初めまして」
 祐一は店主の気風の良さに好感を覚えながら、端の席に座る。
 家族用の掘り炬燵風になっている大きめの座敷席の片側に、遥、優、明日香が並び、反対側に健と祐一が並ぶことになった。中央には、小さいながら回転テーブルも付いている。
 店主、本気と見た。
「さあ、行こうか。皆何がいい?俺、ラーメンセットAと回鍋肉ね」
 メニューを手に、祐一はニヤリと笑った。